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永守重信氏 |
企業で求められる能力とは、煎じ詰めれば、結果を出す力です。この能力と大学の偏差値の相関性が低いことは、皆、よく知っています。にも拘わらず、日本の教育は、依然として知識が重視され、企業も、相変わらずゼネラリスト指向の採用を行い、育成に随分時間をかけているように思います。学校と社会は別、という考え方もあるでしょうが、社会的には非効率だと思います。また、国の教育政策に関わる議論は、全国一律を前提とする以上、なかなかまとまりません。このままでは、グローバル化の進むビジネスの現場にあって、日本企業の競争力が失われていくばかりと心配になります。今、必要なことは、大学の多様性を認める行政、大学・企業が一体となって求められる人材の育成方式を試すことではないかと思います。
今後の日本の教育を考えるうえで、今、最も注目すべきは京都先端科学大学だと思います。掘立小屋から始めた日本電産を世界トップに育て上げた異色の経営者・永守重信氏が、私財を投じ、自らが理事長になってスタートさせた大学です。永守氏が、前身の京都学園に、金も口も出し始めたのは2018年3月です。もともと教育の重要性を訴え、日本の大学の在り方に疑問を呈してきた永守氏は、英語とすぐに使える専門性の獲得をめざして、京都先端科学大学をオープンしました。20年には肝入りの工学部も開設し、10年で京大を抜くと豪語しています。永守氏なら、やりかねません。これが日本の大学、産業界への大きな刺激になっていくものと思われます。
アメリカの激しい個人間の競争は、成功者よりも多くの脱落者を生み出します。それを当然として受け入れる社会的価値観が共有されていることも忘れてはいけません。どこの国においても、個人主義と集団主義はバランスしているものだと思いますが、アメリカでは、歴史的経緯から、それが大きく個人主義に傾いています。それがアメリカの成長の原動力でもあり、社会的な諸弊害の源でもあります。競争力重視の教育にシフトする場合、このことにも留意すべきです。学生も自覚が求められますし、教育者の責任は一層重くなり、企業は必要とする人材を厳選採用し配置する必要があります。また、労働市場の流動性を確保しておくことも重要となります。(写真出典:xtrend.nikkei.com)