グランド・オール・オープリーのライブ会場であるグランド・オール・オープリー・ハウス周辺は、様々な施設が作られて、いまやテーマ・パーク化しているようです。30年以上前にも、ホテル、コンベンション・ホール、ショッピング・モール、ゴルフ場等はありました。提携先のスタッフが、オープリー・ハウスの社長と友人だったことから、ホテルに泊めてもらい、リンクス・タイプのゴルフ場でプレイさせてもらったことがあります。ライブの放送日でもないのに、ホテルやモールには人があふれていました。南部の人たちにとっては、あこがれの場所であり、一度は行ってみたい場所になっているのでしょう。もちろん、ミュージッシャンにとっても、グランド・オール・オープリーに出演することは、日本の紅白歌合戦出場なみに名誉なことなわけです。
週末にカントリー・ミュージックのライブ・ハウスに案内してもらったことがあります。元は貨物集積場だったという駅近くの広い敷地に、納屋を模した大きな建物が建っていました。中に入ると、大小様々な部屋があり、それぞれ異なったタイプの音楽が演奏されています。客のいでたちは、男女問わず、皆一様に、カントリー・シャツ、バンダナ、ジーンズ、カウボーイ・ブーツ、そしてテンガロン・ハットというウェスタン・スタイルでした。聞けば、近郷近在の農家の人々が、週末のお楽しみとして、精一杯のおしゃれをして集まっているとのことでした。つまり、ウェスタン・スタイルは正装であり、ほぼ伝統的な民族衣装とも言えるのでしょう。もちろん、ハットもジーンズも、農作業で着用しているものではなく、よそ行きの新品だったわけです。
違う国に来たな、と思ったものです。NYやLAでは感じたことのない異国情緒でした。最も印象的だったのは、一番大きな部屋で踊られるカントリー・ラインダンス、いわゆるカウボーイ・ダンスでした。カントリー・ラインダンスの起源は、17世紀のイングランドとされます。皆が整列して、ステップを揃えて踊ります。基本的には、全員がステージのバンドに向かって整列しますが、二列で男女が向かい合うなどのパターンもあります。ステップも曲によって異なり、多くの種類があるようです。1970年代の日本のディスコを思い出させます。当時は、ステップ・ダンス全盛であり、その後、フリー・ダンスへと変わっていきました。カントリー・ラインダンスは盆踊りに近いものがあり、NYの人たち、特に黒人たちから見れば、田舎くさい代物だったのでしょう。
ロバート・アルトマンの最高傑作「ナッシュビル」(1975)は、アメリカという国をシニカルに描いた群像劇です。カントリー・ミュージック界をアメリカの縮図とし、大統領選挙の予備選をからめることで、アメリカの政治、社会の立ち位置をコミカルにえぐっています。当然、舞台はナッシュビルしかあり得ません。カントリー&ウェスタンは、アメリカ南部を代表する文化であり、ビッグ・ビジネスでもあります。日本でも、ヒット曲や有名歌手は多少知られていますが、その文化的広がりや深さに関する理解は薄いと思います。日本の民謡や演歌が近いのでしょうが、カントリー&ウェスタンは今もメジャーな文化であり続けています。「アメリカ人の8割は田舎者よ」というフレーズは、スーザン・ストラスバーグが映画「女優志願」(1958)のなかで語ったセリフです。カントリー&ウェスタンや福音派といった南部の文化抜きに、MAGAといった現象、あるいはアメリカという国は理解できないように思います。(写真出典:hudsonvalleycountry.com)






