とは言え、世界的に見れば、やはりパンの都はパリなのだと思います。まずは、パン屋、ブーランジェリーの数が桁違いです。京都は府全体で280軒のパン屋があるようですが、パリは市内だけで1,200~1,800軒とされています。徒歩圏内に必ず数軒のパン屋があります。皆、概ね7時には開店し、焼きたてのパンを売っています。ブーランジェリーは、各種パン、サンドイッチ類、ケーキ・焼き菓子などを商っています。朝の売れ筋は、バゲット、クロワッサン、パン・オ・ショコラあたりで、ショーケース内に他の商品はまばらにしかありません。朝、バゲットを買った人たちは、必ずと言っていいほど、店を出たらすぐにかじりつきます。パリの朝のお決まりの光景と言えます。確かに、焼きたてのバゲットは、抗しがたいほどの美味しさがあります。
パリのパンは何故美味しいのかと言えば、グルテンが少なくミネラル分の多い小麦、硬水、長時間発酵、そして焼く技術などが挙げられます。またバゲットに関しては、小麦粉・水・塩・酵母以外の使用を認めず、冷凍保存も禁止という法律まであり、適合するパンは”バゲット・トラディション”と呼ばれます。また、クロワッサンに関しては、恐らく発酵バターが惜しげもなく使われている点も美味しさの秘訣なのでしょう。ただ、材料に関して言えば、日本に持ち込むことも可能だと思いますし、技術に関してはパリのパン屋で修行した日本の職人も多いはずです。それでも違いが生まれるのは、コストと価格の問題なのかもしれません。そして、それ以上に、パリと東京の湿度の違いが大きく影響しているのではないかとも思います。
パリの空は青く、夕暮れには得も言われぬほど濃い青を見せてくれます。乾燥した空気が、光の違いを生んでいるのだと思います。それは絵画の違いにも大きく影響しています。高温多湿な日本の絵画に、西洋絵画のあふれんばかりの光の輝きはありません。乾燥した空気は、土壌の違いにもつながり、植物の味にも大きな違いを生んでいるのではないでしょうか。パンだけでなく、パリで食べるハム、チーズ、野菜は、とても美味しいと思います。小麦や水の違いだけでなく、あの空気のなかで発酵させ、焼き上げたパンは、日本のものと異なって当然とも思います。やはり、その土地の風土で培われた食べ物は、その土地で食べるべきだということなのでしょう。ですから、京都で食べるべきパンも、バゲットではなく、カルネの類いだと言っていいと思います。
バゲットは、サンドイッチにしても美味しくいただけます。とりわけ、シンプルなハムとチーズのサンドイッチは、パリの食べ物を代表する逸品の一つだと思います。今般、パリに長逗留して、近所に数件あるブーランジェリーのおいしいパンを沢山食べましたが、なかでも”ERIC KAYSER”のクロワッサンを楽しめたことは大きな収穫でした。東京で一番好きなクロワッサンは、メゾン・カイザーのものです。メゾン・カイザーは、ERIC KAYSERの海外展開店となります。しかし、両者のクロワッサンは決して同じとは言えません。日本人の好み、食材の調達、価格などが考慮された結果なのでしょう。パリのERIC KAYSERのクロワッサンは、より発酵バターの風味が強く、その味わいの深さは、さすがパリで一番になったこともある店だと思いました。(写真出典:tabizine.jp)






