![]() |
| 葉問 |
「燃えよドラゴン(Enter the Dragon)」 が公開されたのは1973年のことです。完成作品としてはブルース・リー最後の映画となりました。85万ドルという低予算映画でしたが、世界的な大ヒットとなり、4億ドル(現在価値20億ドル)の興行収入をあげます。モロッコでも繰り返し上映されたのでしょう。映画としては、絵に書いたような低予算B級映画に過ぎませんが、これほどまでに大ヒットした要因については、諸説あります。わざとらしい演出が一般的だったアクション映画のなかで、銃を使わずに展開される格闘シーンが新鮮だったという説が有です。ハリウッド資本が入り、世界市場を視野に製作された点も大きかったと思います。プロットとしては、当時流行していたスパイ映画の要素を入れ、黒人映画の流行を先取りした面も有効だったのでしょう。
しかし、何と言っても、人々を熱狂させたのは、ブルース・リーが見せる本物の格闘技、そして強烈なストイシズムということになります。映画のなかでブルース・リーが披露している技は、彼が考案した截拳道(ジークンドー)という武術です。よくカンフー映画と言われますが、カンフー(功夫)とは、武術の一流派のことではありません。練習や鍛錬によって培われた技や能力を意味する言葉であり、転じて少林拳法や太極拳といった武術全般を指す言葉になったようです。ブルース・リーの截拳道は、師である葉問の詠春拳をより実戦的に体系化したものと言われます。詠春拳は、無駄のない動きが特徴であり、相手の力を利用することなどから近接戦に優れるとされます。我々がカンフーとしてイメージするのは、ほぼ詠春拳だと思っていいようです。
南派少林拳の流れを汲むと言われる詠春拳は、200年前の広東省あたりで、希代の女性拳法家・厳詠春が始めたとされます。19世紀、広東省佛山に詠春拳王と呼ばれた梁贊が現れます。そして弟子の一人・陳華順が、詠春拳初となる武館”杏濟堂”を開きます。ここで広東の詠春拳というイメージが確立されたわけです。陳華順の弟子の一人が葉問でした。裕福な家に育った葉問は、香港留学後、警察官になります。国民党政権下で出世した葉問ですが、中華人民共和国建国後は香港に逃れ、詠春拳の指導を始めます。葉問は、東洋哲学に根ざした伝統的な指導を、科学的な視点に基づく合理的な指導に変えます。これが奏功し、葉問派詠春拳は香港を代表する武術へと成長します。まさに詠春拳中興の祖と言えます。そして若きブルース・リーも入門するわけです。
葉問は、広東語でイップ・マン、普通語ではイェー・ウンと発音します。葉問を題材として生まれたのが、イップ・マン・シリーズです。世界的な大ヒット・シリーズとなりました。主演するドニー・イェンは、今やアジアを代表するトップ・スターと言えます。香港映画以外でも、スター・ウォーズのローグ・ワン、ジョン・ウィックのコンセクエンスにも出演しています。イップ・マン・シリーズは、キャラクター設定として葉問を使っていますが、ストーリーはオリジナルです。見せ場はドニー・イェンの詠春拳ということになります。実に見事な格闘シーンが展開されていますが、武術を見せるだけの映画には限界があります。ただ、詠春拳自体は、これからもアクション映画の基本スタイルとして、世界中で使われていくものと思います。(写真出典:ja.wikipedia.org)






