監督:アレックス・ガーランド/レイ・メンドーサ 2025年イギリス・アメリカ
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イラク戦争時の一つの戦闘を、兵士の記憶に基づき、演出を一切加えず、タイム・フレームもそのままに再現したという実に希な映画です。音楽も一切排除し、銃声等にも加工を加えず、ひたすらにリアルさを追求しています。アレックス・ガーランドが「シヴィル・ウォー」を撮った際、軍事アドヴァイザーを務めたのがレイ・メンドーサでした。メンドーサは、この戦闘に通信兵として実際に参加していた海軍特殊部隊(ネイヴィー・シールズ)の隊員でした。脚本も監督もメンドーサを主に、ガーランドが補佐する形で行われています。撮影に際しては、一緒に戦った他の兵士たちも参加し、可能な限り忠実に戦闘を再現したようです。当初、有志連合は、湾岸戦争の半分という兵員数ながら、ハイテク兵器によるピンポイント攻撃でイラク正規軍を圧倒します。ただ、全国に残存する抵抗勢力との戦いでは、兵士の少なさが裏目に出ます。ラマディで米軍がとった作戦は、大規模な空爆ではなく、小隊や分隊を市内に分散浸透させ、制圧を図るというものでした。本作におけるシールズ小隊も、分隊単位で行動しています。兵士たちは、個々の任務に応じた銃やハイテク装備を装着しています。この頃から、米兵の通信のハイテク化が目立つようになりました。最も象徴的なのは、前線の兵士も、司令部と同じドローン映像を確認できるようになったことなのでしょう。一方、反抗勢力は、普段着にAKM自動小銃を持っているだけです。この違いが、破綻したアメリカによる統治を象徴しているように思えます。
これまでも、リアルな戦闘を描いた映画は、少なからずありました。ただ、リアルな戦闘シーンだけで構成される映画と言えば、リドリー・スコットの「ブラック・ホーク・ダウン」(2001)くらいしか思い出しません。実話に基づく作品でしたが、リアリティを高めるために相当脚色されていました。現実を忠実に伝える描写か 現実を的確に伝える描写か、実に微妙な問題です。製作サイドが、観客に伝えたいことを、より効果的に表現しようとすれば、一定の脚色は当然なのだと思います。ただ、本作は、一切の脚色を拒みつつ、なおかつ観客を惹きつける迫力を持っています。誠に希有な作品だと言えます。それを実現できたのは、レイ・メンドーサの細部へのこだわり、そして全体をコントロールしたアレックス・ガーランドの構想力なのだと思います。
本作は、米軍礼賛のヒーロー映画でもなければ、戦争の悲惨を伝える反戦映画でもありません。ただただ戦闘のリアリティを描き、それをどう判断するかは、観客に委ねてるとも言えます。イラク戦争自体は、開戦理由とされた大量破壊兵器が発見されなかったことから、批判されることの多い戦争です。まだ、見事に失敗したアメリカによるイラク統治は、イラク、ひいては中東全体に混乱を広げ、かつアメリカ軍兵士たちの死傷率を高め、PTSDに苦しむ多くの帰還兵を生みました。実際に起きた戦闘をリアルに再現しているとは言え、こうした問題を想起させる要素をも多く含む映画でもあります。(写真出典:imdb.com)






