下瀬美術館へは、山陽本線玖波駅からバスに乗って約10分、大型商業施設が並ぶ一画の海沿いにあります。対岸には厳島南端があります。立地としては、必ずしも良くないと思います。今後、木立が生長すれば、随分と変わるのかもしれません。美術館本体の他に、ロッジやレストランも併設されています。水盤に浮かぶカラフルな可動展示室が目を引きます。ややコンテナのようにも見えます。展示室にいた職員に「なぜ可動式なのか」と聞いたところ、「さァ」と答えられました。面白いとは思いますが、さほど意味があるようには思えませんでした。可動展示室よりも面白いと思ったのは、内外の壁面が鏡のようになっていることです。とてもユニークな視覚効果を生んでいます。また、木組みの天井で海の景色が見事なエントランス・ホールは印象的でした。
ヴェルサイユ賞は、あくまでも建築や内装に関わる賞であって、収蔵品や展示まで含めた美術館総体を評価しているわけではありません。ちなみに、訪れた時には、エミール・ガレ展が開催されていました。下瀬美術館を創設した丸井産業創設家のコレクションなのだそうです。丸井産業は、1958年に創業した建築関係の総合パーツ・メーカー兼商社であり、業界トップクラスの企業だそうです。創業者夫妻がエミール・ガレはじめ美術品の収集家であり、相続人である現会長下瀬ゆり子氏が、そのコレクションを展示するために美術館を開設しました。500点というコレクションを散逸させないためには、最良の選択だと思います。美術館は建てて終わりではなく、運営コストもかかります。ただ、会社が順調である限り、節税対策としても機能して行くのでしょう。
美術館における美術品と建築との関係は面白いと思います。基本的に、美術館の主役は美術品であり、建築は美術品を守り、引き立てるものなのでしょう。そういう意味では、ルーブルやウフィツィ等は王道であり、ル・コルビジェの国立西洋美術館なども正統派中の正統なのでしょう。近年は、有名建築家の手になるモダンで美しい美術館が増えています。それも地方に多いように思います。誠に結構なことだとは思いますが、もはやメインの展示品が建屋という美術館も少なくありません。しかし、モダンな外見とは裏腹に、展示室は単なる箱という美術館が多いように思います。種々の制約からして、それは当然だと思います。そう考えると、坂茂がコンテナのような展示室を可動式にしたねらいが見えてきます。美術館の制約に対する彼の抵抗なのだと思います。
美術館のビジネス的側面からすれば、建築、庭園、展示手法などで集客する戦略も十分にあり得ます。規模や資金力の乏しい小規模な美術館では、展示替えはするにしても、どうしても所蔵品中心の展示になります。従って、美術品以外にも集客のキラー・コンテンツは持っておきたいところです。しかし、美術館の本来的趣旨がブレる懸念があり、そうなると将来性も心配になります。広島市から車で40分程度の下瀬美術館ですが、本格的なレストランや宿泊用のヴィラを併設しています。いずれも高い評価を得ています。ひょっとすると、下瀬美術館は、従来の美術館の概念とは異なる新しいスタイルを模索しているのかもしれません。それは、欧州で見かける新しい富裕層をターゲットとした新しいライフ・スタイルの提案のように思えます。(写真出典:simose-museum.jp)





