監督:ヨハン・グリモンプレ 原題:Soundtrack to a Coup d'Etat 2024年ベルギー・フランス・オランダ
☆☆☆
1960~65年に起きたコンゴ動乱が、過去の映像のみで描かれています。コンゴ共和国は、1960年、ベルギーの植民地から独立します。当時、アジア・アフリカでは、かつて植民地だった国々の独立が相次ぎ、それに伴う旧宗主国との利権争いも起こります。また、米国とソ連の東西冷戦が激化し、核兵器の開発競争や陣営の拡大競争が行われるという国際情勢下にありました。非白人勢力の拡大という意味では、米国内でも黒人の市民権運動が激化していました。映画は、そうした世界の動きを丁寧に拾っています。ちなみに、戦争は国家間の全面的武力衝突、内乱は国内勢力同士の全面的武力衝突を指します。動乱とは、暴力は伴うとしても、基本的には政治的混乱を指します。コンゴ動乱を描く本作で違和感を感じた最大のポイントはジャズの扱い方です。ルムンバ首相殺害に抗議して国連に殴り込みをかけたアビー・リンカーンとマックス・ローチの逸話を挿入することは理解できます。ルイ・アームストロングがアフリカを音楽親善大使として巡回したことはよく知られています。ただ、それはCIAの隠れ蓑として利用されていました。これも有名な話です。サッチモの親善大使の描き方はやや冗漫だと思いました。要は、アメリカの黒人たちの状況とアフリカの植民地の状況をリンクさせて伝えたかったのでしょう。ただ、そのために、他のジャズ・ミュージシャンやマルコムXを登場させる必要があったとは思えません。過去のフィルムだけで構成される本作に、リズムやダイナミズムを与えるための方策のようにしか見えません。
コンゴ動乱の展開は実に複雑です。まずは、ルムンバ率いる民族主義者が独立を勝ち取ります。アジア・アフリカで過熱する脱植民地の動きに呼応していました。コンゴの独立は認めたものの、旧宗主国ベルギーは、利権の温存を図ります。南部カタンガでは、ベルギーに支援されたチャンベが分離独立を宣言します。国際的批判をかわすべくベルギーは、自国兵ではなく傭兵を投入します。ルムンバの要請を受けた国連も、国連軍を投入します。しかし、事態は打開されず、ルムンバはソ連に接近します。アメリカは、ウラン等の豊富な地下資源がソ連に渡ることを恐れ、モブツ参謀長を支援しクーデターを起こさせます。逮捕されたルムンバは、カタンガに送られ、殺害されます。事態を収めるべく現地に飛んだ国連事務総長ハマーショルドも謎の死を遂げます。
他にも、親米派の大統領カサブブと首相ルムンバとの対立、多様な民族間の対立、毛沢東主義者の登場等もあり、事態は混迷を極めます。映画は、複雑な状況のトレースに挑戦し、かなりうまく整理していると思います。ただ、事態の展開を追うことに汲々として、事の本質を見失いがちのように思えます。監督の手腕にかかわる問題ではなく、それほどコンゴ動乱は複雑だったということなのでしょう。基本線は、民族主義とベルギー・アメリカの横暴ということだと思います。さらに言えば、傭兵も大きな問題だと思います。このあたりにフォーカスしないと、ドキュメンタリー映画としての思想や主張は見えにくくなってしまうわけです。プロットの展開に苦慮した監督がたどり着いた結論がジャズを使うことだったのでしょうが、うまくいっていません。
1965年、モブツが二度目のクーデターに成功し、コンゴ動乱は収束、独裁の時代を迎えます。反対勢力を武力で抑えたモブツの独裁は1997年まで続きます。この間、モブツは民族主義を掲げ、国名をザイール、首都のレオポルドビルをキンシャサに改名しています。なお、現在の国名はコンゴ民主共和国になっています。さて、キンシャサと言えば、”キンシャサの奇跡”と呼ばれた1974年の世界ヘビー級タイトルマッチ、モハメド・アリ対ジョージ・フォアマンの一戦が思い起こされます。マルコムXの影響を受けて兵役を拒否した世界王者アリは、タイトルを剥奪されていました。一方のフォアマンは無敗の絶対王者でした、結果は、アリの8ラウンドKO勝ち。蝶のように舞い、蜂のように刺す、と言われたかつてのアリではありませんでしたが、クレバーなボクシングが世界中を沸かせました。また、この時、ザイールの人々がアリを応援して連呼した“Ali Bombaye(リンガラ語で、アリ、やっちまえ)”は、アントニオ猪木がアリから贈られた入場曲としても知られることになります。(写真出典:bunkamura.co.jp)






