日本でベーグルが人気になったのは、15~20年前のことだと記憶します。その時にも、日本的な軽さに違和感を覚えました。それなりに美味しかったのでしょうが、買うことはありませんでした。しばらくすると、ベーグル屋の数は激減します。なんでもブームになり、すぐに廃れるという実に日本らしい現象でした。ブームが去った理由をネットで調べると、固さが不評だったというのです。まったく理解できない理由です。それがベーグルであり、焼きたてでなければ、オーブン・トースターで熱してから食べればいいだけのことです。ところが、最近、またベーグルがブームになっているようです。そのきっかけは、フワフワとした韓国式ベーグルだと聞きました。
ベーグルは、17世紀の東欧ユダヤ人社会が発祥とされます。小麦粉、水、塩を煉ってリング状にし、焼く前にお湯で茹でる(ケトリング)パンです。表面はパリッとし、中はもっちりとした固い食感が特徴です。バター、卵、牛乳を使わないため脂質が少なく、低カロリーで高タンパクということになります。これがヘルシーだと言われる所以であり、日本や韓国で、若い女性を中心にブームになっている背景でもあります。玄米やオートミール人気と同じ理由です。恐らく、日本や韓国では、乳製品を使わないパンをベーグルと呼んでいるのではないでしょうか。ヘルシーと言いますが、もともとはアシュケナージ(東欧系ユダヤ人)の厳しい環境から生まれた貧しい製パン法だと思います。堅いのでよく噛む必要があり、それで空腹を満たしていた面もあるのでしょう。
ベーグルに、バター、卵、牛乳が使われない理由は、17世紀の東欧で起こったハシディズム、超正統派ユダヤ教と関係があるという説もあります。ユダヤ教の聖典に基づく食事規定(カシュルート、コーシャー)では、ミルクも鶏卵も食べることはできますが、その取り扱いには厳密な規律があります。それがハシディズムにおいては、さらに厳密な取り扱いが求められ、パン屋がパンを焼く工程では対応しきれなかったため、ミルクも卵も使わなくなったというのです。ありそうな話だと思います。ベーグルのもう一つの特徴である生地を茹でる工程に関しては、13世紀、ポーランド公国の首都クラクフで行われたキリスト教徒によるユダヤ教差別から生まれたという説があります。ちなみにクラクフはベーグル発祥の地とされています。
ポーランド公国のユダヤ人は、パンを焼くことを禁じられたのです。キリスト教徒の聖餐を汚させないという理由でした。ムチャクチャな理由ですが、ユダヤ教徒を迫害するのに理由などどうでもよかったのでしょう。一神教の恐ろしさです。そして、真実かどうかは分かりませんが、ここで茹でるという発想が生まれたという説があるのです。パンを焼くなという禁令は緩和されますが、後にポーランドの司教たちは、キリスト教徒がユダヤ人からパンを買うことを禁じています。いずれにしても、ベーグルは、ユダヤ人迫害の歴史のなかで生まれたと言ってもいいのでしょう。ユダヤ人が、今でも素朴に過ぎるベーグルを食べ続けている理由は、民族の厳しい過去を忘れないためでもあるのかもしれません。(写真出典:ja.wikipedia.org)






