アメリカ国務省は、最も習得が困難な言語として、中国語(北京語と広東語)、日本語、韓国語、アラビア語を挙げています。なかでも日本語を最も習得に時間を要する言語としています。もちろん、アメリカ人にとって、という前提ではありますが、他国でも同じ認識だと思います。中国語は漢字と四声、韓国語はハングルと独特な文法、アラビア語はアラビア文字と語根派生システムといったところが難しさの主な要因とされています。日本語も含め、文字がアルファベットではないことがハードルを高くしているのでしょう。とりわけ漢字は、表意文字ゆえ膨大な数に上ります。諸橋轍次の大漢語辞典には親文字だけで5万字以上が収録されています。さらに同じ漢字でも四声や発音によって意味がまったく異なるというややこしさがあります。
日本語には、漢字の音読み、訓読みがあり、さらに表音文字の仮名、カタカナが加わります。日本語の難しさは、曖昧な表現や分かりにくい文法にもあります。韜晦術は、日本語に限らず、日本文化の根幹だとも言われます。また、文法的には、SOV(主語・目的語・動詞)型ながら柔軟な語順、あるいは主語の省略なども特徴的だと思います。さらに、敬語、謙譲語、丁寧語の使い分けに至っては、若い日本人も十分には対応できていません。それにしても、このように複雑怪奇な日本語は、いかにして生まれたのか、興味がそそられるところです。世界一シンプルな言語とも言われる英語は、古英語を話していたブリテン島に多様な民族が押し寄せてきたことから単純化したと言われています。日本語は、逆の道をたどったように思えます。
簡単に言えば、孤立化ということになります。日本人のルーツに関しては、大陸から来た縄文人、北東アジアから来た弥生人、東アジアから来た古墳人が混血した三重構造説が有力とされます。重要なのは、それ以降、大陸からの征服者も大量移民も現れなかったことです。島国という点ではブリテン島も同じですが、平野が少なく、かつ天変地異の多い日本は魅力に乏しかったのでしょう。もちろん、ブリテン島と日本との違いの背景には、欧州が遊牧民の圧迫を受けたという事情もあります。いずれにしても、古墳時代以降、日本へは大陸から文字や文化は伝わりますが、人的支配が無かったことが、日本語の孤立化を進めたわけです。だとすれば、中国と陸続きで、かつ中国による支配も経験した朝鮮半島の言語が孤立化したことの方が、より不思議に思えてきます。
朝鮮民族のルーツはウラル系だと聞きます。朝鮮半島には、漢民族、ツングース系、あるいは倭人も押し寄せ、それを朝鮮民族が押し返して歴史が進みます。興味深いのは、紀元前1世紀から紀元4世紀頃まで続いた楽浪郡、真番郡、臨屯郡、玄菟郡のいわゆる漢四郡の時代です。燕の家臣が逃亡してきて開いた衛氏朝鮮を漢が破り、半島の北西から中部を支配しました。つまり、古代朝鮮は、南部を除き、500年間に渡り漢民族が支配していました。言語の孤立が起こるとは思えません。恐らく、漢民族による支配は点と線に限定されていたのでしょう。中原に起こる漢民族の王朝にとって、朝鮮半島は辺境であり、戦に負けて逃げ込む場所に過ぎなかったわけです。孤立言語が維持された大きな理由はここにあると思います。ただ、朝鮮民族は、自らの強靭さによって独立性を保ってきたと主張しがちではありますが。(写真出典:ja.wikipedia.org)






