ずっと、”トトカルチョ”は、日本独特のやくざなスラングだとばかり思っていました。それがイタリア語だと知ったのは、2001年にスポーツ振興くじ、いわゆるTOTOがスタートした時でした。”カルチョ”はサッカーで、”トト”は大雑把に言えば賭けです。トトカルチョという言葉は、Jリーグやサッカーくじが始まるはるか前から、ごく一般的に使われていたと思います。”野球トトカルチョ”、”甲子園トトカルチョ”、”相撲トトカルチョ”等は、職場、商店街、町内等で、ごく普通に行われていました。それどころか、相撲好きだった昭和天皇は、宮中で、側近たちと相撲トトカルチョを楽しんでいたそうです。もちろん、お金は一切賭けずに、天皇が賞品を出すスタイルだったようですが。
例えば、相撲トトカルチョにも、実に様々な賭け方があったようです。毎日の勝敗を一番多く当てた人が掛け金を総取りする方式、予想の当たった取組の数に応じて配当する方式、優勝力士を当てるもの、場所毎にあらかじめ選んだ力士の勝敗でポイントを積み上げて順位を決めるもの、等々です。かつては、場所前に、新聞屋さんが白地の星取表を届けてくれました。皆、TV観戦しながら、それをいちいち記入していたものです。もちろん、トトカルチョをやっているので、熱心だったわけです。総選挙があると、”選挙トトカルチョ”の用紙が回ってきました。全候補者の当落予想、選んだ候補者の当落予想、政党別の当選者数予想等があったように記憶します。最も大規模で複雑だったのは”夏の甲子園トトカルチョ”でした。優勝予想に留まらず、優勝・準優勝の連番、ベスト4予想、そして個々の勝敗予想等々、賭けの対象はかなり広範囲でした。もはや仲間内でのお楽しみどころか、玄人顔負け、あるいは、ほぼビジネスと言えるほどのレベルでした。当然、予想紙まで回ってきたものです。本当に好きな人たちが多かったということです。
もちろん、昔も、公営ギャンブル以外の賭博は違法です。ただ、刑法上、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない」とされています。”一時の娯楽に供する物”の具体的定義が問題となりますが、判例で、金銭はこれに該当しないとされています。つまり、法的には、お金をかけたら、すべてアウトです。一方、実際の検挙・起訴実務の現場においては、やはり程度問題ということになるようです。時代が変わったということなのか、何かきっかけがあったのか、いつの頃からか、各種トトカルチョは姿を消していきました。ところが、2020年、政府によって、各種トトカルチョは、事実上、解禁された、と考えられます。
安倍政権の強弁して押し通すという政治手法は、国民無視としか言いようがありませんでした。検察官の定年延長問題も、その一つ。渦中の黒田東京高等地検総長の賭け麻雀に対する対応にも驚かされました。法務省は、テンピン、つまり千点百円の賭けを”一時の娯楽に供する物”として、黒田氏を標準例より軽い「訓告」処分にします。明らかに判例無視です。金銭を賭けたらアウトという判例は、よく知られています。一体、どういう神経でこういう国民をバカにした対応ができるのか、不可思議です。もはや、日本は、法治国家とは呼べません。政権が、書いてあることをやらない、書いてないことをやる、そういう時にこそ、暴動が発生するものです。検察審査会が、本件を起訴相当と判断しました。今後の司法の判断が注目されます。(北日本新聞配布の相撲星取表 トトカルチョとは関係ありません 出典:kitanippon.net)