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大藤の千枚漬 |
京の三大漬物と言われるのは、しば漬、すぐき、千枚漬けです。私が最も好きなのは、千枚漬けです。江戸末期、孝明天皇の料理番だった大黒屋藤三郎が、聖護院かぶらに出会い、千枚漬けは生まれました。その後、御所を下がった藤三郎は、「大藤」を屋号に店を持ち、千枚漬けを売り出しました。職人技としか言いようのないかぶらの薄さ、甘酢漬にすることで保たれる純白、昆布のいい出汁、保存を前提としない塩加減。実に京都らしい、華やか漬物です。大藤の千枚漬けは、壬生菜が添えられます。藤三郎が、御所で千枚漬けを出すときに、壬生菜を松に見立てて添えたことに由来するそうです。
京の三大漬物のなかで、最も古い歴史を誇るのが、紫(しば)漬です。もっとも原種に近いちりめん赤紫蘇の産地であった大原の里で、古くから作られていた赤紫蘇と茄子の塩漬けです。柴漬と命名したのは、建礼門院徳子だとされます。平清盛の娘にして、安徳天皇の生母である徳子は、平家一門が滅亡した壇ノ浦で唯一人生き残り、大原寂光院で余生を送ります。里人が差し入れた漬物が気に入り、柴漬と名付けたとされます。最近市販されている柴漬けは、胡瓜や茗荷を加え、調味酢を加えた柴漬風が多いようです。対して、土井志ば漬本舗等が作る伝統的な柴漬は本柴漬と呼ばれます。
すぐきは、かぶの一種である京野菜”酢茎”を塩で漬け、乳酸発酵させたもので、すっきりとした酸味が特徴。”天秤押し”という独特の漬け方も、よく知られるところです。もともと酢茎は、桃山時代から、上加茂神社だけで栽培され、漬物としてのすぐきは、上加茂神社が御所等への贈答用に漬けていたそうでです。江戸末期からは、近隣の農家での栽培も始まったとのこと。今でも、すぐきは上加茂周辺でのみ作られ、室や樽に住みついた乳酸菌は、この土地独特のものだと言われます。すぐきの乳酸菌から発見された”ラブレ菌”は、制癌効果や免疫力助長効果があると言われ、注目されました。
すぐきは別として、京都で土産物として市販されている漬物の多くは、塩を抑え、昆布のうま味を効かせ、甘酢で上手に仕上げているようです。それが分かれば、家でもできそうですが、なかなかうまくはいきません。京都の人は、香のものがまずければ食事は台無し、とまで言います。うるさい客に鍛えられた匠の技、そして京野菜の存在が、京の漬物を一段特別なものにしています。(写真出典:ja.kyoto.travel)