低賃金、長時間労働等、劣悪な労働環境下にある工場は、スウェット・ショップ、搾取的な工場と呼ばれます。スウェット・ショップは、産業革命の申し子でしたが、先進国では規制法が作られ、姿を消しました。20世紀も後半に入ると、国際化や技術の進歩もあり、産業界は、コストの安い工場を求めて、発展途上国へと展開していきます。特に設備投資が安価な衣料品産業は、スウェット・ショップを世界中に広げます。安価で回転率の高いファスト・ファッションが台頭すると、スウェット・ショップはさらに拡大しました。ラナ・プラザの縫製工場は、27ブランドもの製品を扱っていたようです。
ラナ・プラザ崩壊事故後、欧米のブランドも参加して国際的なスウェット・ショップ監視機構が作られました。一定の効果はあったのでしょうが、バングラデッシュ政府の及び腰の対応もあり、状況が改善されたとは言えないようです。かつての日本もそうだったように、経済成長は、繊維・衣料の輸出ドライブから始まります。ただ、最低限、安全と成長は両立させる必要があります。人命を犠牲にした成長などあり得ません。さらに、ファスト・ファッションが、結果、生み出す大量の衣料廃棄物の一部は、発展途上国へと送り出され、安価、あるいは無料で人々に提供されていると聞きます。体のいい廃棄ですが、これが途上国の衣料産業を破壊し、成長機会をも奪っているわけです。
さらに、ファスト・ファッションが、大量に消費するコットンは、生産性の高い遺伝子組換綿花に頼っています。自然界に存在しない遺伝子組換植物は、大量の化学肥料を必要とし、耕作地周辺に、深刻な健康被害を生じさせているとも言われます。産業革命が巨大化させた人間の強欲は、地球、あるいは世界が、奇跡的に保ってきた微妙なバランスを破壊しながら、さらに大きくなっているということなのでしょう。だとすれば、地球と人類は、破滅への道をたどっているとしか言いようがありません。地球全体が、”ラナ・プラザ”になる日がくる、ということです。
国連が提唱する”持続可能な開発目標”、いわゆるSDGsは、新たなバランスを、地球と世界に作り上げようとする試みです。この取り組みがラスト・チャンスかもしれません。SDGsは、あくまでも目標であって、プロセスは、まだ試行中、あるいは議論されている段階です。基本的には、川下規制一辺倒ではなく、川上、つまり強欲自体に何らかの歯止めをかける必要があるように思います。現在、スウェット・ショップに対する抑制効果が最も高いと言われるのが、SNSによる発注元への批判だと言われます。確かに、かつてに比べ、ファスト・ファッション各社は神経を尖らせるようになりました。(写真出典:medium.com)