監督:トッド・ロビンソン 2019年アメリカ
☆☆+
ヴェトナム戦争初期、激戦の中に飛び込み、多くの兵士を救助し、戦死した空軍のパラレスキュー隊員に関わる実話です。ビル・ピッツェンバーガーの勇気ある行動は、米軍最高の栄誉である名誉勲章に値する貢献だったにも関わらず、エビデンス不足で却下され、空軍十字章が与えられます。戦友たちは、34年間、名誉勲章を求める運動を続け、2000年、ついに名誉勲章が与えられます。映画は、国防総省の官僚が、出世を捨ててまで、退役軍人たちの思いを実現するという筋立てになっています。泣きました。ヴェトナム帰還兵が引きずる過去、戦友たちへの思い、勲章に対する思い、愛国心、34年後であっても名誉勲章を与えるアメリカという国家のあり方、アメリカ映画のお家芸を見せてくれます。サー・カム・ミーの戦いは、1966年4月、サイゴンの南70Kmのゴム園で、2日間に渡って行われた戦闘です。C中隊を囮にヴェトコンの大隊をおびき寄せ、それを他の中隊が殲滅するという作戦でした。しかし、ヴェトコンが待ち伏せしており、かつ他の中隊が密林に動きを阻まれたため、C中隊は孤立し、猛攻撃にさらされます。また、定員200名のC中隊は、当時、離脱中の兵が多く、兵員数は134名と作戦想定を大きく下回り、戦力不足は否めませんでした。夜間には、ヴェトコンが負傷者まで殺害します。最終的には、米軍の激しい近接爆撃で戦闘は終ります。結果、死者36名、71名負傷、死傷率80%という悲惨な戦いになります。地上戦における米軍の死傷率は、1日当たり6%程度と言われます。80%は、ほぼ虐殺レベルと言えます。
戦場上空には、陸軍の救援ヘリが飛んでいましたが、極めて危険な状況から、離脱します。近くにいた空軍のパラレスキュー・ヘリが支援に入ります。彼らの任務は、空軍パイロットのレスキューであり、陸軍兵士を助ける義務はありません。しかし友軍の苦境を見かねて駆け付けます。衛生兵まで負傷したことを知ったピッツェンバーガーは、地上に降下し、激戦のなかで救助にあたります。彼が命を救った兵士は12名にのぼると言います。自らも戦い、3発の銃弾を受け、それでも救助を続けたと言います。思えば、戦場における衛生兵ほど過酷な任務はない、とも言えます。
タイトルは、リンカーン大統領の有名なゲティスバーグ演説から引用したそうです。演説では”The Last Full Measure”の後に”of devotion”と続きます。ピッツェンバーガーの活躍は、まさに”最後にして最大の献身”と言えます。ちなみに、演説は「彼らの死を無駄にしないために、我々は、”人民の人民による人民のための政治”を地上から消滅させないと決意するものである」という有名なフレーズへと続きます。監督の、ピッツェンバーガーへの、そしてヴェトナム帰還兵に対するリスペクトを十分に伝えます。もっとも、タイトルから”of devotion”をカットした理由は、意味深でもありますが。
泣きましたが、映画としての出来はホメられるレベルにはありません。尻切れトンボとなっている陰謀話の仕立てがお粗末、平板でお決まり重視のカメラ・ワーク、それをカバーできなかった編集、ヴェトナムっぽさを感じない戦闘シーンと、実に惨憺たる代物となっています。それでも泣けるのは、ひたすら、ピッツェンバーガーの実話の重さ、そしてこれが遺作となったピーター・フォンダはじめ名優たちによる名演がゆえです。その二つだけで成立している映画とも言えます。クリント・イーストウッドに監督させたかった映画です。(写真出典:en.wikipedia.org)