2021年3月6日土曜日

煮込み

岸田屋の煮込み
土曜の朝から立石で告別式があり、お清めはどうしようか、と話していると、一人が、ここは立石ですよ、 「宇ち多”」に決まりですよ、というわけです。しかし、土曜の昼に開いているのか、と聞くと、11時開店だというので、皆で向かいました。たまげました。土曜の真昼間、11時少し前、既に長蛇の列ができていました。宇ち多”、恐るべし。やむなく、はす向かいの店で飲みながら、行列が途切れるのを待ちました。しばらくすると行列が短くなってきたので、今だ、とばかりに列につくと、今日は売り切れの声がかかり、あえなく断念。やむなく河岸を替え、夕方までグダグダと飲みました。

立石の宇ち多”は、東京五大煮込みに数えられる名店。もつ焼きともつ煮が有名です。結局、その後、宇ち多”には行けていません。東京三大煮込みと言えば、北千住の「大はし」、森下の「山利喜」、そして月島の「岸田屋」です。それに、宇ち多”と門仲の「大阪屋」を加えて、東京五大煮込みとなります。大はしと宇ち多”には行ってませんが、他の3店のなかで一番好きなのは岸田屋です。深川の味を見事に伝える岸田屋は、東日本一の居酒屋とも言われます。17時の開店ですが、確実に一巡目で入店したいなら、16時から並ぶことです。岸田屋の煮込みは、真っ黒な見た目に、割とあっさりとした味付け、まさに深川の味です。牛メンブレインと呼ばれるハラミのスジは、適度な噛み応えもあって、コップ酒が進みます。ちなみに、西日本一の居酒屋と言われるのは、京都の川端の「赤垣屋」です。ここもうまい。

森下の山利喜も大人気店ですが、やや風変りです。煮込みの付け合わせに、皆が注文するのがガーリック・トースト。要は、煮込みというよりも、ほぼビーフ・シチューの風情。おいおい、という感じですが、これがなかなかの絶品で美味いわけです。二代目が洋食屋で修行した人で、こうなったと聞きます。6時前の入店なら予約することもできます。門仲の大阪屋は、開いていたらラッキーという不定休ぶり。部位ごとに串に刺して煮込み提供されます。昔は、このスタイルが煮込みの定番だったようです。美味いのですが、あまり煮込み感がありません。それ以上に、有名店にありがちな客あしらいの悪さがいただけません。

臓物系の煮込み料理は世界中にあります。要は、上流階級が肉の上質な部分を取り、下層階級は残りの部分を食べるわけです。臓物類は、臭みを取り、柔らかくするために、濃い味で煮込みます。ローマのトリッパ、フランスのトリプー、ブラジルのフェジョアーダと、あげたら切りがないほど類似料理があります。アメリカ南部のガンボーも、特に臓物料理というわけではありませんが、煮込みの風情があります。香辛料や、一緒に煮込む野菜類に違いはありますが、いずれも、まさに煮込みです。工夫に工夫を重ね、大事に大事に受け継がれてきたソウル・フードです。どれも美味いに決まっています。

五大煮込みには入っていませんが、好きだったのは、居酒屋世界遺産とも呼ばれた木場の「河本」の通称「にこたま」です。黒い煮込みに黒い茹で卵。きっちりとした深川の味でした。昭和そのものの店内に立つ看板娘・真寿美さんが、熱中症に倒れたのが15年、81歳だったと記憶します。その後、店は再開したものの、真寿美さんが店に立つことはなく、18年には亡くなったそうです。翌年、店も閉じました。店内は真寿美さん、調理は弟のアンちゃん、と二人で切り盛りしていました。晩年の真寿美さんは、耳が遠くなり、何を注文しても、煮込みとホッピーしか出てきませんでした。(写真出典:ja.wikipedia.org)

マクア渓谷