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From Russia With Love |
007シリーズは、1962年の「007は殺しの番号(ドクター・ノオ)」に始まり、2021年秋公開予定の「ノー・タイム・トゥ・ダイ」までの25作、60年に渡る超ロング・シリーズです。イアン・フレミングの原作のネタはとうに尽きてオリジナル脚本となり、ジェームス・ボンド役も6代目になっています。映画のフレームは、相も変わらず、荒唐無稽な冒険スパイ映画といったところですが、さすがに時代の移り変わりとともに、変化したことも多くあります。常に時代の変化を取り込むようでなければ、長続きもしません。最も大きな変化は、コミカルな要素も含めて漫画チックだった作風が、シリアスなアクション映画へと変わってきたことでしょう。
ショーン・コネリー時代の007には、ボンド・ガールと呼ばれる美女たち、彼女たちが一目で惚れるボンドの容姿と紳士ぶり、超一流の射撃や格闘の腕前、無尽蔵な知識と鋭い見識、スマートなスポーツ・カー、数々の秘密兵器、英国の上流階級的こだわりを見せる服装と嗜好品と皮肉等々、当時の大衆のあこがれが詰まっていました。娯楽映画は、常に観客のあこがれをスクリーンに映し出す役割があるのでしょう。当時、大衆があこがれたものの一つが海外旅行や高級リゾートです。当時は、誰もがヴァケーションで海外旅行を楽しめる時代ではありませんでした。夢のある舞台やロケ地は、007シリーズの重要な要素だったのだと思います。それは007に限らず、スパイ・アクション小説や映画には、必須のファクターでした。
暇にあかして、007の主なロケ地を作品毎にリストアップしてみました。大雑把に言えば、高級リゾート系とエキゾチック系に大別できます。無論、エキゾチック系は、欧米人がエキゾチシズムを感じるところです。シリーズ当初は、両者が交互に登場しますが、近年は、高級リゾート系が減っています。このあたりは、時代の変化を反映しています。欧米の旅雑誌が、ありきたりな高級リゾートをお薦めすることは無くなりました。そもそも旅雑誌そのものも減っています。多様化、情報化時代の現れなのでしょう。登場回数の多いリゾートは、カリブ海とヨーロッパ・アルプスのスキー・リゾートです。それも前半の作品に集中しており、時代を感じさせます。12作目の「ユア・アイズ・オンリー」に登場するコルティナ・ダンペッツォは、今でも風光明媚なところですが、そこでスキーをしたいと思う人は大幅に減ったと思います。
エキゾチック系にも変化が見られます。例えば、2作目「ロシアより愛をこめて」といった初期の作品では、旅へ誘うような異国情緒が強調されています。近年の作品では、特異性に着目してるように思えます。例えば、23作目「スカイ・フォール」に登場する長崎の軍艦島等です。”場所ありき”から”アクションありき”へと変化しているのでしょう。別な言い方をすれば、007シリーズも、旅ガイドとしての役割を終えていると言えるのでしょう。余談ですが、中学生の頃、セカンド館で「ロシアより愛をこめて」を見た私は、すっかりイスタンブールに魅せられ、父親に「俺は、将来、イスタンブールに住む」と言ったことがあります。父親は、即座に「どうぞ」と言っていました。後年、イスタンブールへ旅した時には、映画のロケ地を探しまくりました。今風に言えば、聖地巡礼というわけです。(写真出典:flashbak.com)