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タンツーリーユイ |
正直なところ、鯉が美味しいと思ったことは、ほぼありません。泥臭くて嫌だという人もいます。しっかり泥抜きした鯉でも、さほど美味しいとは思えません。鯉料理と言えば、味噌ベースで味濃く煮付けた”鯉こく”、あるいは酢味噌で食べる刺身”鯉の洗い”が代表格と言えます。いずれも、淡泊な味を濃い味噌の味でごまかしているわけです。貯水池や田んぼで簡単に養殖できる淡水魚は、昔、内陸部の極めて貴重なタンパク源だったと思います。ただ、味が淡泊に過ぎるので、精がつくと喧伝して、養殖と消費を促したのだと思います。時代とともに、どこでも多様な食材が入手可能になると、鯉の養殖も出荷も、減少の一途をたどってきたようです。
一つ気になる鯉料理があります。子供の頃、食べて大感動した中華料理「糖醋鯉魚(タンツーリーユイ)」です。鯉を丸揚げして、甘酢あんかけにしたものです。お祝いごとがあり、宴席の後、親族だけで中華料理店へ行きました。そこで出てきたのがタンツーリーユイでした。小学校低学年だった私は、うまいと大騒ぎして、バクバク食べました。大人たちは面白がって、料理の名前を覚えさせました。恐らく、私が、初めて覚えた中国語です。以来、なぜか、タンツーリーユイという言葉だけは忘れませんでした。成人した後に、数回、食べる機会がありましたが、初めて食べた時の感動はありませんでした。見た目の派手さに驚き、甘酢の味とサクサクの食感に、食欲が刺激されたということなのでしょう。鯉の味が気に入ったわけではなかったと思います。
鯉を食べると精がつく、という話は、鯉の生命力の強さにあやかろうという話なのだろうと思っていました。ところが、古くから、様々な効用が認識されていたようです。3世紀頃に書かれたという中国最古の薬学書「神農本草経」でも、鯉は“養命薬”とされているようです。肝臓病に効く、母乳の出が良くなるなどといった効用も知られていたと言います。実は、これらの薬効は、科学的にも証明されているようです。例えば、疲労回復や肝機能の強化に効果があり、栄養ドリンク剤にも使われているタウリンが、鯉の肉には豊富に含まれているのだそうです。なかなか優秀な食品だったわけです。
とは言え、近年、鯉と言われて食用をイメージする人は、ほとんどいないと思われます。やはり、”泳ぐ宝石”といわれるニシキゴイを思い浮かべる人が大半なのでしょう。観賞用のニシキゴイの養殖は、新潟県で、明治期に始まりました。その美しさゆえ、瞬く間に国内でファンを獲得し、いまや世界中へと広がっています。年間出荷額は40億円に迫り、1尾の取引額で過去最高は2億円だと聞きます。(写真出典:tabi-mind.com)