2021年9月16日木曜日

カンドンブレ

Candomle
音楽の起源には、「言語起源説」、「感情起源説」、「求愛起源説」、「労働起源説」、「信号起源説」、「呪術起源説」等、諸説あります。恐らく、どれか一つが起源ということもなく、同時発生的だったのではないでしょうか。また、赤ん坊も音楽に反応することや、人間以外で音楽やビートに反応する生物が希であることから、ヒト科独特の特徴だとする説もあるようです。もっとも、人間が太古の昔に音楽を獲得してから、DNAに刻まれてきた記憶ということかも知れません。ただ、最初の音楽は歌声であり、最初の楽器は打楽器だったことだけは間違いないでしょう。言語や歌は、直立二足歩行の結果、喉を自在に使えるようになった人間だけが持つ特徴です。 

音楽は、目的に応じて、それぞれ進化を遂げていくわけですが、信仰や宗教のなかでも大きな存在になっていきます。神への祈りの形として、神の言葉を伝えるため、神を供応するため等々と、様々な使い方がされます。恐らく、音楽、ないしは音楽的要素を持たない信仰も宗教も無いのではないでしょうか。例をあげればキリがありませんが、よく知られたところでは、キリスト教の聖歌や賛美歌、仏教の声明や御詠歌、あるいはイスラム教のアザーンも音楽的です。なかでも、アフリカのアニミズムを起源とする信仰で用いられる打楽器と歌と踊りは、最も古い信仰と音楽の関係を伝えているように思えます。さらに言えば、最も古い人間と音楽との関係そのものでもあるのでしょう。

奴隷貿易による南北アメリカへの黒人の流入は、西アフリカ文化の流入でもあります。音楽的には、欧州文化と西アフリカ文化が出会い、ブルース、サンバ、ソン等が生まれます。多くは、教会音楽などに西アフリカ的センスが加えられたものですが、なかには西アフリカ文化そのものが保持され、西洋的な要素を取り込んだものも存在します。代表的なものとして、ブラジルの土着宗教カンドンブレの音楽が挙げられます。カンドンブレは、最も古い黒人奴隷上陸の地でもある北東部バイーアを中心に、今も200万人以上の信者がいると言われます。ナイジェリアのヨルバ族の信仰がベースとなっており、多数のオリシャと呼ばれる神が信仰されます。打楽器と歌に合わせて踊ることが祈りの形であり、音楽も踊りもオリシャによって異なります。間違いなく、サンバの源流がここにあるのだと考えます。

カリブ海一帯に広がるブードゥーは、ハイチ発祥と言われます。源流は、ペナンのフォン族の信仰であり、ペナンでは国教とされているようです。加えてキューバには、ヨルバ族起源のサンテリア、パロという宗教もあり、その祈りは、やはり打楽器と歌と踊りで構成されます。西アフリカの民族音楽、そしてそれを起源とする南北アメリカの土着宗教に共通するのは、長いリフ、女性コーラス、そしてコール&レスポンスだと思われます。延々と続く打楽器のリフと踊りは、間違いなくトランス状態を生み出します。そして、女性コーラスとコール&レスポンスは、集団性を獲得・強化することをねらいとして、音楽が使われていることの現れだと思えます。古い形のサンバやソンにも、その様式は受け継がれています。

ひょっとすると、集団性と音楽の関係は、何も土着宗教に限った特徴ではなく、すべての音楽に共通することなのかも知れません。つまり、音楽は人間の集団性と深く関係していると言えるのではないでしょうか。それゆえ、音楽は、集団性を最大の特徴とする人間に限って見られる習性なのだとも考えられます。(写真出典nowinrio.com)

マクア渓谷