2021年9月27日月曜日

フレンチ・トースト

サラベスのフレンチ・トースト
フレンチ・トーストは大好物です。卵、ミルク、砂糖等を溶いた液にパンを浸し、バターを溶かしたフライパンで焼く、というのが、日本における定番レシピだと思います。その歴史は古く、古代ローマには、ミルクに浸したパンを焼くレシピが残り、欧州では、各国に同様の料理が存在し、異なる名称で呼ばれてきました。卵の黄色から黄金のトーストと呼ぶ地域も多く、また液体に浸すことからスープと呼ばれることもあり、貧しい騎士クラスがデザートにしていたことから”貧しい騎士”と呼ぶ地域もあります。特徴的なのは、フランスの”pain perdu(失われたパン)”だと思います。失われたパンとは、残って堅くなったパンのことであり、それを液体に浸すことで、再度、柔らかくして食べる料理ということです。つまり、残り物を活用する倹約料理として広まったわけです。

フレンチ・トーストという名称は、主にアメリカと日本だけで使われるようです。フレンチ・トーストというくらいですから、フランス発祥の料理だと思っていました.。ところが、実際には、古くから欧州全域に存在していたわけです。では、なぜフレンチ・トーストと呼ぶのか。実は、フレンチとは国名ではなく、人名でした。1724年、ニューヨーク州アルバニーの酒屋ジョーゼフ・フレンチが、自分の名前を付けて売り始めたことから広まった名称のようです。ちなみに、フライド・ポテトはベルギー発祥ですが、アメリカではフレンチ・フライと呼びます。これは、初めてフライド・ポテトを食べたアメリカ人が、ベルギー人のフランス語を聞いて、フランスの食べ物だと勘違いしたからなのだそうです。

実は、フレンチ・トーストという名前の由来には、ジョーゼフ・フレンチ命名説とは、異なる説があります。元々フレンチ・トーストは、ドイツ系移民が持ち込んだので、ジャーマン・トーストとして知られる料理だったと言うのです。第一次世界大戦で、アメリカがドイツと敵対すると、敵国の名前では具合が悪いと、フレンチ・トーストに変えられたという説です。戦時中の日本でも盛んに行われた敵性語の使用禁止です。ハンバーグ・ステーキも、一時、ソールズベリー・ステーキと呼ばれていたようです。2003年のイラク戦争の折、アメリカとフランスは、派兵を巡って対立することになりました。アメリカ議会のレストランでは、フレンチ・フライがフリーダム・フライと名前を変えられました。同様に、フレンチ・トーストも、一部では、フリーダム・トーストという呼び方に変えられていたようです。

NYで、一番人気のフレンチ・トーストと言えば、サラベスのものだと思います。”NYの朝食の女王”とも呼ばれるサラベスは、日本にも進出していますので、行列さえ覚悟すれば、東京でも食べられます。バゲットを使うサラベスのフレンチ・トーストは、奇をてらったものではなく、ごくオーソドックスなものです。ところが、なぜか美味いのです。そもそもバゲットが美味しいのでしょうが、ヴァニラ・ビーンズ等の使い方も上手なのだと思います。東京には、様々なアレンジを加えたフレンチ・トーストを売りにする店が増えました。ただ、伝統的レシピで言えば、ホテル・ニューオータニのフレンチ・トーストこそ王道だと思います。一晩、液に浸すという厚いトーストは、見事に幸福感を感じさせてくれます。

私の基本レシピは、卵、ミルク、バニラ・エッセンスの液に、デニッシュ生地の食パンを浸し、片面30秒づつ、レンジにかけます。これで、一晩浸す手間を省けます。バターを溶かしたフライパンで蒸し焼きにして、シナモン・シュガーとメイプル・シロップをかけて完成です。私の理解では、フレンチ・トーストは、パンを台に使った厚い卵焼きです。(写真出典:sarabethsrestautrant.jp)

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