2021年9月2日木曜日

なぜ人は裸なのか

ボノボ
霊長類のなかで、人間だけ体毛が薄いのは何故か、ということが気になっていました。哺乳類全般を見れば、鯨やイルカにも体毛がありません。これは水の抵抗を減らすためと推測できます。象やサイにも体毛はありません。大型動物は、体温を保つより下げることが難しく、体毛が無くなったのではないかと想像できます。友人たちに、人間はなぜ裸なのか、と聞くと、皆、人間だけが毛皮などの衣服を着るからと答えます。これは本末転倒です。体温を保ち、体を防護したければ、体毛を濃いままにしておけば良かったわけです。本やネットで調べた限り、諸説ありますが、結論的には、まだ完全には解明されていないようです。

人間と他の霊長類や哺乳類との大きな違いは、森から平原に出て、直立二足歩行をしたことだと思われます。平原で直立二足歩行を始めたことで、獲物を追ったり、外敵から逃げたりする際、活発に活動することになり、体温を下げる必要が高まった、という説があります。なかなか説得力があります。しかし、二足歩行だけなら、恐竜や鳥類の一部も行います。哺乳類ではカンガルーたちも二足歩行します。なかには活発に動くものもいます。また、直立が主たる要因ではなく、活発に動くことが原因だとすれば、二足歩行を行わない哺乳類でも、活発に動くものは数多く存在します。

人間は、アフリカの大地溝帯で誕生したとされていました。地溝帯が生まれ、雨は西側に降り、乾燥した東側の森林はサバンナに変わります。森で暮らしていた人間は、樹上から地上に降りざるを得なかったという説です。熱い地域で直立二足歩行を始めたので、体温を下げる必要が生まれたとも言われます。残念ながら、大地溝帯の東側には、他にも活発に活動する哺乳類が存在します。人間だけという説明にはなりません。しかも、近年、大地溝帯以外の森林地帯からも猿人が発見され、従来定説だった人類の大地溝帯発生説は、概ね否定されているようです。人間が裸である理由は、他にも、寄生虫から身を守る説、ネオテニー(幼体成熟)説、海の生物だった説までありますが、どれも科学的合理性に欠けます。

人間の体毛が薄くなった理由として、最も有力視されているのが、脳との関係です。人間は、直立二足歩行を始めたことで、両手が自由になり、道具を巧みに使うようになります。喉がまっすくになることで、様々な声を出すことが可能になり、言語を巧みに使うようになります。そして道具や言語を多用するために脳が発達します。そして、直立していることで、重い脳を支えることが可能になりました。脳は熱に弱い性質を持っています。大きな脳が活発に働けば、冷却の必要性も高まります。鼻を使った空冷システムだけでは十分ではなく、血流を使った、いわば水冷システムも併用する必要が生まれます。その際、体の表面温度を低く保っておくことが効果的だったわけです。

納得できる話です。ただ、一方で、人間には、一部、濃い体毛が残っています。頭髪は、大事な脳を衝撃や紫外線から守るためだと考えることができます。髭、腋毛、陰毛が残ったことについては、諸説あります。摩擦への耐性説、効果的なフェロモン発出説等ありますが、これまた定説はないようです。また、女性よりも男性の方が体毛が濃い傾向についても、同様に定説はないようです。最近、私は、頭髪が薄くなる一方で、耳毛の伸びが早いな、と思っておりますが、これは人間の進化に関わる問題ではなく、単に老化の問題なのでしょう。(写真出典:pri.kyoto-u.ac.jp)

マクア渓谷