2021年9月6日月曜日

蕎麦切り(2)

へぎそば
田舎そばは、そば粉十割以外は考えられませんが、生蕎麦で、もっとも多いのは、そば粉8割につなぎが2割の”二八そば”です。打ちやすく、切りやすい。つまり、のどごしのいい、手繰りやすい蕎麦ができるわけです。つなぎは、小麦粉が一般的ですが、他には、自然薯や山ごぼう、あるいは卵を使うものもあります。珍しいところでは、新潟の”へぎそば”は、布海苔を使います。中越地方は織物が盛んな土地です。横糸をピンと張るために、布海苔が使われていたことから、つなぎにも使われるようになったと聞きます。のどごしの良さが特徴です。ちなみに、”へぎ”とは木片と書き、要するに板に乗ったそばという意味です。

新潟のそば屋は、圧倒的にへぎそば中心です。美味しいのですが、時折、無性に二八そばが食べたくなりました。名古屋に赴任している時も、そばには困りました。きしめん王国名古屋は、蕎麦不毛の地でした。もちろん大都市ですから、いい店もありますが、極めて蕎麦屋が少ないわけです。恐らく高松の次くらいに少ないと思います。意外と大阪や福岡の方が蕎麦屋は多いように思います。ただ、人口あたりの蕎麦屋の数を都道府県別で言うと、圧倒的に少ないのが高知県だと聞きます。次いで奈良県、滋賀県と続くようです。奈良と滋賀は、外食文化そのものが乏しい土地柄ではあります。逆に蕎麦屋が多い県ベスト3は、長野県、山形県、福井県となります。納得できます。

福井県の蕎麦文化は特色があります。なにせ福井県の人たちは、やたら”越前おろしそば”を食べます。おろした辛味大根をぶっかけにして食べます。強力粉をつなぎに使った力強いそばと大根おろしがよく合います。福井県の人たちは、三食、これでいいとまで言います。私も、越前おろしそばは好みです。私は、基本的に、蕎麦はもりそばに限る、と思っていますから、冬でも、ほとんど種物は食べません。ただ、山形の冷たい”肉そば”だけは別です。神田美土代町の「河北や」の冷たい肉そばは絶品です。締めに肉そばを食べたいがために飲みに通っていました。山形の蕎麦は美味しいのですが、やや風変わりな蕎麦文化も持っています。

面白いと思ったのが、天童の「水車」発祥と言われる”鳥中華”です。要は、蕎麦のつゆに中華麺が入っているという代物です。不思議なことに、これが良く合って、実にやさしい味になります。鶏肉が乗って、油分もあるせいか、満足感もあります。また、姫路駅の名物”えきそば”も、薄めのそばつゆに中華麺という取り合わせです。定番は、油揚げを乗せた”きつねえきそば”です。初めて食べた時には、やや頭が混乱しました。ところが、これまた、何とも言えないほっこり感のあるやさしい味でした。鳥中華やえきそばを食べて感じるやさしさは、逆に、蕎麦という麺が持つ力強さを、改めて教えてくれているようにも思います。

そば粉を使った料理は海外にもあります。フランスのガレットが有名ですが、欧州、ロシア、アジアに分布しています。細い麺にして食べるのは、中国、ブータン、韓国、そして日本だけです。日本以外の3カ国では、射出型、いわゆるところてん方式の製麺機を使います。伸ばして、たたんで切るのは日本だけです。近年、新潟のメーカーが開発した射出型の製麺機が普及しつつあるようです。十割そばが、職人の技がなくても、簡単に作れます。昔、射出器も大陸から伝来していた可能性はありますが、蕎麦文化が広がらなかったため、忘れさられたのかも知れません。蕎麦切りは、器用な日本人ゆえの独特な食文化と言えそうです。(写真出典:hotpepper.com)

マクア渓谷