2026年7月1日水曜日

道後

温泉浴は、とても良い楽しみだと思います。温泉地や温泉宿の評価は、建屋、庭、しつらえ、食事などを総合的に判断して決められる傾向にあります。しかし、本来的には、湯質こそが最も重視されるべきだと思います。 個人的には。道後温泉の湯質が一番のお気に入りです。個性的で際立った湯質の温泉は他に多くありますが、バランスの良い、やさしい湯質としては道後が最高であり、毎日でも入りたいと思います。何度も道後温泉に行きましたが、たまたま、宿は、いつも大和屋でした。道後を代表する宿ですが、会社の関係で、多少の融通を利かせてくれるからです。例えば、温泉宿は一泊二食が基本ですが、特別に一泊朝食付にも対応してくれました。

道後の湯は、きめ細やかで刺激の少ない優しい湯です。18本の源泉をブレンドすることで、適温、かつなめらかな源泉掛け流しを実現しています。湯質としては、アルカリ性単純泉です。アルカリ分は、皮膚のタンパク質を溶かすので、湯はぬるっとした感触になります。古い角質や余分な皮脂が溶かされ、肌がスベスベになります。アルカリ性の温泉が美人の湯と呼ばれる由縁です。例えば、三重県の榊原温泉などはアルカリ度が高く、肌は超ヌルヌルになります。道後の湯はそこまでではなく、ちょうどいい塩梅です。なお、単純泉とは、含有成分のなかに突出した成分がない温泉を指します。泉質は、単純泉の他に、硫黄泉、二酸化炭素泉、酸性泉等々、11種類あります。単純泉は、刺激が少なく、様々な成分による効能の多様さも特徴です。

道後温泉は、縄文土器が出土したことから3千年の歴史を持つと言われます。縄文を持ち出すまでもなく、道後は日本最古級の温泉です。日本書紀や風土記にも記載される日本三大古泉は、道後、有馬、白浜となります。延喜式では、道後、有馬、いわき湯本が挙げられています。清少納言は枕草子で、有馬、玉造、榊原を名湯としています。道後は、都からは少し遠かったということなのでしょう。起源は、白鷺が傷を癒やすのが目撃されたという、ありがちな説が伝わります。また、大国主命と少彦名命の話もあります。伊予国へ旅をし、疲れて倒れた少彦名命のために、大国主命が”速見の湯”(別府)を海底の管を通して道後へと導き、少彦名命を浸からせます。少彦名命は回復し石の上で踊りだした、というのです。少彦名命は、有馬、玉造の伝説にも登場します。

道後最大の魅力は湯質だと言えますが、他にも共同浴場、温泉街、アクセスの良さ等も魅力だと思います。共同浴場は、何と言っても重要文化財の道後温泉本館ということになります。1894年に改築された本館は木造3階建で、1階が浴場、2~3階がお茶やお茶菓子も付いてくる休憩室となっています。しばらく大改修工事が行われていましたが、2024年にはフルオープンしています。道後温泉本館から市電の駅まで温泉街が続いています。その中ほどに、温泉煎餅の玉泉堂本舗があります。古風で暗い店には客がいません。というのも、予約なしで購入できず、しかも半年待ちという老舗です。ただ、正月だけは松山市内のデパートで販売されるので予約なしで買えるようです。その正月の煎餅を頂戴したことがあります。美味しいのですが、半年待ちは理解できませんでした。

道後温泉のアクセスの良さも、天下一品です。松山駅から道後温泉駅までは市電でわずか20分。松山へ出張した際にも、市内のホテルなど使ったことがありません。道後に泊まればいいわけですから。運が良ければ、週末にのみ運行される坊っちゃん列車に乗ることもできます。復元された軽便鉄道時代の蒸気機関車が牽く列車です。坊っちゃん列車の形状は蒸気機関車ながら、中身はディーゼル車になっています。夏目漱石の「坊ちゃん」で、マッチ箱のような汽車、と書かれていることからこの名称となっています。道後のお湯も含めて、伊予松山はいいところです。城もいい、お湯もいい、食事もいい、そして、何よりも、どこかのんびりとした伊予の人々がいい、と思うわけです。(写真出典:nippon.com)

道後