野菜は何でもそうでしょうが、採れ立てが一番美味しいに決まっています。トウモロコシも、朝もぎが最も甘いわけです。それが、収穫後、数日経っても美味しいわけですから、なかなかのものです。トウモロコシは、中南米原産とされ、15世紀末、コロンブスが欧州に伝えました。日本には16世紀後半に伝来したとされます。海外(唐)から入ってきた諸越に似た植物ということで、当初は唐諸越と表記されたようです。諸越は、アフリカ原産の穀物であり、中国では高粱(コーリャン)、世界的にはソルガムと呼ばれます。その後、唐諸越は、粒が揃って並ぶ様から玉の字をあてて玉蜀黍と表記されるようになりました。日本でトウモロコシの栽培が本格化したのは明治期のことでした。アメリカから早生品種が輸入され、北海道開拓使が栽培を始めています。
世界の穀物の生産量は増加を続けており、2021年には30億トンに達しています。うちトウモロコシは12億トンを占め、各8億トン弱の米と小麦をはるかに超えています。トウモロコシの6割は家畜の飼料になります。食用は、わずか13%です。他はエタノール等の燃料や工業用ということになります。生産国としては、アメリカと中国が群を抜いており、世界の半分を占めています。食用としての消費量を見れば、原産国メキシコがトップです。主食であるトルティーヤの原料であること、栽培が気候風土に適していることなどが理由なのでしょう。食用としてのトウモロコシは、トルティーヤがそうであるように、圧倒的に粉食が主流です。粒食が中心である日本は、極めて珍しい国ということになります。米の粒食を主食にしている影響なのかもしれません。
粒食中心ゆえ、日本のトウモロコシは、どんどん甘く品種改良されてきました。札幌名物の焼きトウモロコシは、醤油・味醂・砂糖などで作った甘辛いタレが魅力です。焼きトウモロコシは、1885年(明治18年)、平岸の農家・重延テイが、家計の足しにしようと、大通りで売ったのが始まりとされます。当時の品種は今ほど甘くなかったので、甘辛いタレを塗って焼いたのでしょう。近年の糖度ランキングを見ると、”おおもの”、”きみひめ”が20%と、メロン・マンゴー並みです。さらに”ピュアホワイト”、”サニーショコラ”、”甘々娘”等が続きます。弘前の”嶽きみ”に多い品種は”恵味”と聞きますが、昼夜の寒暖差の激しい岩木山麓という栽培地の特性がさらに甘味を増すのだそうです。十年ほど前、新宿の伊勢丹が、1本千円で嶽きみを販売したことが話題になりました。
ものづくり大国を自称する日本の工業界では、小さいものはより小さく、精密なものはより精密に、と進化してきました。農産物も同じです。甘いものはより甘くなっていきます。もちろん、価格は高くなっていきます。情報革命と流通の進化が、そうした傾向を助長しているように思います。日本の工業界には「いいものを作れば、必ず売れる」という神話があります。農業でも同じかもしれません。しかし、この神話には、多少の疑問を感じます。高価で入手困難といった高級農産物があってもいいとは思いますが、全ての生産者がそれを指向するならば、日本の農業はおかしなことになります。基本とすべき思想は、あくまでも「良いものを安く」だと思います。トウモロコシの甘みが弱いと思ったら、甘辛いタレを塗って焼けばいいわけです。(写真出典:hugkum.sho.jp)
