![]() |
鶏卵素麺 |
福岡市は、1889年に、福岡と博多が合併して出来た街です。古代から栄えた博多は、太宰府の玄関口として、あるいは商人による日本最古の自治都市として栄えてきました。一方の福岡は、関ヶ原の戦いの功績が認められた黒田長政が築いた福岡城の城下町です。那珂川を挟んで、古い商人町と新しい武家町が隣り合っていたわけです。合併後も二つの町は、なかなか融和せず、市の名称は福岡とし駅名は博多とするといった調整も行われます。外の人間には、福岡・博多の違いが分かりにくく、福岡市の旧名が博多と勘違いしている傾向もあります。例えば、有名な山笠祭の正式名称は博多祇園山笠であり、旧福岡の人からすれば「あれは福岡市の祭ではなく、博多区だけの祭だ」ということになります。
福岡に城下町の風情を感じることはありません。博多にも、長い歴史を持つ商人町を思わせるものはほとんどありません。大火や空襲で町が焼かれたという歴史もありますが、他にもそういう町は多いものの、ここまで伝統や歴史を感じさせない土地はありません。それは、福岡市の人々のこだわりが薄いことの現れなのでしょう。伝統に価値観を見いださなかった、あるいはそれにすがる必要がなかったとも言えます。それほどまでに、福岡市は繁栄を続けてきた町であり、経済原則が優先されてきたわけです。福岡市の観光案内を見ると、さすがに櫛田神社や大濠公園は入っているものの、他は、ほとんど新しい施設です。鴻臚館跡、板付遺跡、大野城跡といった極めて重要な古代遺跡など、完全に番外です。
土産物も同様だと思います。博多駅には、実に多くの土産物屋が集まり、賑わいを生んでいます。ただ、多くの店が、ほとんど同じ商品を扱っています。明太子、博多通りもん、博多の女等々、定番商品とそのヴァリエーションが並ぶばかりです。ただ、それが飛ぶように売れるわけです。また、豚骨ラーメン、もつ鍋、水炊き、うどん、餃子、鶏皮といった福岡市の食文化は大人気ですが、すべて歴史が浅く、かつ、福岡が起源とされるのはもつ鍋とうどん(諸説あり)くらいです。起業家精神あふれる街とも言えますが、流行を追う安易な街とも言えそうです。奈良には“大仏商法”という言葉があります。努力せずとも客は来る、といった意味です。どうも福岡市には、同じ傾向があるのではないかと思ってしまいます。
城下町福岡を代表するお菓子と言えば、「鶏卵素麺」があげられます。もともとは、平戸に伝わったポルトガル菓子です。製法を教わった松屋利右衛門が、1673年に博多で販売を開始しています。江戸期、日本三大銘菓に数えられることもありました。もっとも三大銘菓の定説とされているのは、金沢の長生殿、長岡の越の雪、松江の山川であり。鶏卵素麺は次点といったところです。残念ながら知名度は低く、隅に追いやられてる印象があります。業績不振から製造・販売元の松屋利右衛門が身売りしたことも影響しているのでしょう。現在は、工場を買った鹿児島の会社が運営する松屋、そして創業家が再興した松屋利右衛門の2店が製造・販売しています。歴史的背景から、開放的で進取の精神に富むとされる福岡市民の気風は素晴らしいと思いますが、鶏卵素麺に限らず、福岡市には、もっと大事にすべきものが数多くあると思います。(写真出典:edepart.sogo-seibu.jp)