2023年11月21日火曜日

おにぎり

おにぎりがブームなのだそうです。と言っても、近年、数が増えたおにぎり専門店が大人気という話です。なかには、数時間ものの大行列ができている店もあるようです。専門店のおにぎりは、上質な具材とふんわりとした握り方が特徴だと思われます。また、斬新なおにぎりや、いわゆる映えるおにぎりもあるようです。値段は、多少高めだとは思います。ただ、おにぎりのことですから知れたものでしょう。物価高が生活を圧迫するなか、いわゆるプチ贅沢ということで人気を集めているのだと思われます。また、コンビニおにぎりで育った若い人たちにとって、ふんわりと握られたおにぎり、高級感のある具材は新鮮なのかも知れません。日本の国民食であるおにぎりですが、たまに変化が起きるところが面白いと思います。

おにぎりの歴史は古く、弥生時代の遺跡からは、似たようなものが出土しているようです。現在と同じおにぎりは、古墳時代の遺跡で見つかっています。ジャポニカ米の特徴である粘り気が、おにぎりという食べ物を生んだのでしょう。日本と同じくジャポニカ米を栽培する中国北部や朝鮮半島には、冷たい米を食べる文化がなく、おにぎりは日本で独自に生まれ、育ったようです。平安時代には一般化していたようですが、戦国の世になると、兵糧としてさらに広がります。江戸期には、白米の生産が大幅に増えたこともあり、農作業時の昼食、小昼として、あるいは旅や行楽のお共としても普及します。また、海苔の生産が盛んになったことから、海苔を巻くスタイルも登場し、ほぼ現在に至るおにぎりの姿が出来上がります。

おにぎりは簡単に作れることもあって、家庭で作って食べるものでした。それを大きく変えたのは、コンビニおにぎりの登場でした。おにぎりは買って食べるものになったわけです。日本におけるコンビニ第1号は、1974年に開店したセブンイレブンの豊洲店でした。おにぎりは、開店当初から販売されていたようですが、マイナーな商品でした。それを大きく変えたのは、1978年にセブンイレブンが採用したフィルム式包装でした。ご飯と海苔をフィルムで仕切って包装し、食べるタイミングで海苔を巻くという画期的な商品でした。海苔のパリパリ感が人々を驚かせました。翌年には、シナノフーズがフィルムを引き抜くパラシュート式を開発、1990年には、同社が開発し、現在も主流となっているセンターカット式が登場しています。

この包装がコンビニおにぎりの爆発的ヒットにつながり、定番化したわけです。その立役者だったパリパリの海苔ですが、国内の生産量は、1990年をピークに下落しています。生産地個々の事情もあるようですが、最大の減少要因は、海水温の上昇です。地球温暖化が、ストレートに海苔の生産減少、価格高騰につながっています。海苔好きには頭の痛い話です。10年ほど前、築地の寿司屋のカウンターで、この話を知人にしていたら、大将が「お客さん、違うよ。海苔が高値になった一番の原因は、コンビニおにぎりだよ」と言うのです。あいつらが海苔を買いあさるから、ただでさえ減っている海苔の値段を押し上げているんだ、こっちはいい迷惑だよ、と苦々しく言っていました。

コンビニおにぎりは、手軽で便利なものです。ただ、海苔のパリパリ感は良いのですが、機械で成型されたおにぎりは堅すぎると思います。本来的なおにぎりの空気を含んだふんわり感とは随分と違います。そのことへの批判や反省からか、コンビニでは、ふんわりとした高級おにぎりも発売されています。ただ、今度は、握れていないおにぎりになっています。おにぎりは、寿司のシャリと同じで、外はしっかり、中はふんわり、が基本なのだと思います。それは、おそらく手で握らないと実現できない食感なのでしょう。さはさりながら、国民食であるおにぎりは、様々なスタイルがあっていいのだとも思います。伝統は、今、輝いてこそ意味がある、と言っていいのでしょうから。(写真出典:kurashiru.com)

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