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アブラヤシ畑 |
中国語で、””頑張れ”は「加油」となります。語源は、勉強中にランプが消えないように油を足すこととされます。また、加油は調理を意味し、しっかり食べてがんばれということだとする説もあるようです。油は調理に欠かせないものになっているわけです。1970年代末から、日本では烏龍茶ブームが起こりました。人気絶頂だったピンクレディーが健康のために烏龍茶を飲んでいると発言したことがきっかけだったとされます。油を使った料理が多いわりには太った中国人が少ないのは、食事の際に烏龍茶を大量に飲むからだ、というわけです。確かに、烏龍茶のポリフェノールには、脂肪の吸収を抑制する効果があるようです。さはさりながら、当時の中国人が太っていなかった最大の理由は、一人当たりGDPがまだまだ低かったからだと思います。
開発途上国では、当然のことながら、経済成長とともに供給カロリーが上がっていきます。1960年台はじめの中国における一人当り一日当りの供給カロリーは、1500Kcalに満たなかったようです。干ばつと大躍進運動がもたらした”3年大飢饉”の影響が長引いたことも背景にあるのでしょう。それが、1970年代末の改革開放後には、急激な増加に転じます。2022年には3500Kcalに迫り、世界トップ5にランクインしています。近年多く見かける中国人旅行者には小太りな人が多いように思います。ちなみに、供給カロリーも肥満率も世界トップに君臨するのはアメリカです。かつて、アメリカの供給カロリーは、欧州各国と比して相対的に低い水準にありました。それが増加に転じたのは、1980年代のことであり、1990年代には世界トップに踊り出ます。
アメリカ人の肥満の原因は、ジャンク・フードにあると言われます。それもそのとおりだとは思いますが、ジャンク・フードは80年代に至ってはじめて普及したわけではありません。アメリカの供給カロリーが増加に転じたのは、ジャンク・フードや冷凍食品にパーム・オイルとコーン・シロップが多用されるようになったからだとされます。アブラヤシからとれるパーム・オイルは、調理用だけでなく、マーガリン、菓子類、インスタント食品などの加工食品用で多用され、石鹸やバイオ燃料にも使われています。その生産量も消費量も、植物油のなかでは、大豆油、菜種油を抑えてトップです。アブラヤシの原産は東アフリカですが、栽培が始まったのは19世紀のインドネシアとされます。オランダ人が種を持ち込み、栽培を始めたわけです。
マレーシアで驚いたことの一つは、どこへ行ってもアブラヤシ畑だらけだということです。マレーシアは、インドネシアに次ぐパーム・オイルの生産国であり、この2ヶ国が世界の生産量の8割を占めます。かつて、マレーシアはゴム園だらけだったようですが、1960年代からアブラヤシへの転換が始まりました。そのころからパーム・オイルの生産・消費が拡大し、急成長を続けてきました。パーム・オイルが植物油のトップ・シェアになったとは言え、調理用油としては、アメリカ、南米、中国では大豆油、欧州や日本では菜種油が、依然、主流です。つまり、パーム・オイルは、調理ではなく加工分野でシェアを急拡大してきたわけです。パーム・オイルは、動物性脂肪と同じく飽和脂肪酸が多く、肥満や生活習慣病への悪影響が懸念されています。また、自然破壊や労働問題も指摘されています。しかし、安価で使い勝手のよいパーム・オイルは、生産、消費ともに拡大を続けています。(写真出典:sustainablejapan.jp)