カーボン・ファイバーは、アクリル繊維などを高温で炭化させて作ります。0.005~0.1ミリメートルという極細の繊維を作り、これを束ねて使います。三菱レーヨン(現:三菱ケミカル)のカーボン・ファイバー製造工場を見学したことがあります。とてつもなく長い生産設備は圧巻でした。工場の一角ではゴルフ・クラブのシャフトも製されており、オーダー・メイド用のフィッティング・ルームも併設されていました。いくつかのセンサーを体につけて、何度かスウィングすると、測定された数値をもとに最適なシャフトの設計図ができるという仕組みです。計算には、東大と共同開発したというアルゴリズムが使われていました。本来的にはプロ・ゴルファーのための施設ですが、試してみろ、と言われ、結局、セミ・オーダーのシャフトを買うはめになりました。
オーダー・メイド・シャフトの製造工程も見せてもらいました。一本毎に職人が手作りしていました。特性の異なるカーボン・ファイバーを角度・方向を変えながら慎重に貼り付け、先端や根本といった部分毎の強度やしなりに変化をつけていきます。この製造プロセスは、基本的に自動車や飛行機の主翼であっても同じだと言えます。しかし、いかに強度が高いとは言え、もとは繊維の束に過ぎません。ということは、カーボン・ファイバーの強さは、方向によって異なる、つまり異方性の高い素材ということになります。そこで、使用目的に応じて、重ね方や樹脂との組合せなどで補強され、専用部材が作られます。カーボン・ファイバーの特性に関する理解不足で起きた事故もあります。2023年、5人が犠牲となった潜水艇タイタン号の遭難等が典型なのでしょう。
タイタンは、4,000mの深海に沈むタイタニック号の見学ツアーのために開発された潜水艇です。いまだに正式な事故調査は終わっていないようですが、運営会社社長の安全性や法律を無視した強引な経営に問題があったようです。沈没した知床遊覧船にも相通じるところがあります。技術的な問題点の最たるものは耐圧殻の強度だったようです。通常、耐圧殻は水圧を逃がすために球体になりますが、タイタンは客を多く乗せるために円筒形にしていました。世界初となったカーボン・ファイバー製の耐圧殻は、十分な強度があって、かつ安価であることから採用されたようです。しかし、深海では繊維の隙間に海水が浸透し、強度が失われていきます。そこで、繊維の断裂を感知するセンサーを設置しますが、社長は、センサーが発する警告を無視したようです。
カーボン・ファイバーは樹脂と組み合わせることでCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)として製品化されるのが一般的です。そのリサイクル方法としては、ファイバーと樹脂を分離し、ファイバーは再利用することになります。いくつかの方法で実現されてもいるのですが、まだコスト面や処理力に課題も多く、大半は埋め立て処理されています。近年、硫酸を電気分解して生成する電解硫酸を用いる方法が注目されているようです。電解硫酸は、半導体製造工程で、フォトレジストを洗い流すために利用されていますが、CFRPの樹脂を完全に分解し、ファイバーは強度を保ったまま再利用できるとのこと。理想的な方法ですが、問題は処理力の低さだと言われています。いずれにしても、カーボン・ファイバーの技術と生産は、日本がトップになっていますので、そのリサイクルに関しても、世界をリードすべきだと思います。(写真出典:m-chemical.co.jp)