私は、年間を通じて、昼食に麺類を食べていますが、暑い盛りに家で食べる2大定番は、越前おろし蕎麦と冷やしおろし納豆うどんです。もちろん、他のメニューも食べますが、圧倒的に多いのがこの二つです。いずれも大根を使うわけですが、根本の方は越前おろし蕎麦に、首の方は冷やしおろし納豆うどんに使い、誠に効率が良いと思っています。正しい越前おろし蕎麦には辛味大根を使いますが、青首大根の根本でも十分に辛くて楽しめます。一方、冷やしおろし納豆うどんの私流の作り方は、大根おろし、ネギ、卵の黄身にめんつゆを注ぎ、よくかき混ぜた納豆を加えて、しっかりとかき混ぜます。そこへ冷やしたうどんを入れて、さらに白く泡立つまでかき混ぜます。あれば、ミョウガ、青シソ、オクラなどを入れても美味しく食べられます。
蕎麦や素麺、あるいは稲庭うどんなどの細いうどんでも同じことだと思うのですが、どうも太目のうどんが合っているように思います。私が、冷やしおろし納豆うどんを知ったのは30年ほど前のことです。蕎麦屋の女将さんから、飲んだ後には、冷やしおろし納豆うどんが一番いいと教わりました。確かに、納豆の風味もさることながら、ツルツルとした食感と冷たさが心地良く、すっかりハマりました。極めてシンプルであるにも関わらず、とても美味くいただけます。誰が発明したのかと思い、調べて見ましたが、よく分かりませんでした。身近な食材の組み合わせなので、自然発生的だったのかもしれません。うどんを冷やして食べる文化は室町期から存在しており、納豆を調理用の食材として使い始めたのは江戸期だったと言いますから、江戸期に生まれたのでしょう。
山形県中央部の村山地方の郷土料理に「ひっぱりうどん」があります。乾麺を鍋で茹で、鍋から直接すくって(ひっぱって)食べる田舎料理です。そのつけ汁としては、めんつゆに納豆とネギを入れるのが基本です。そして、特徴的なのは、さらにサバ缶も入れることです。もともとは山に籠もる炭焼き職人たちの簡易な食事だったようですが、家庭にも広がっていきます。その冷たいぶっかけバージョンが冷やしおろし納豆うどんに進化したという説があります。納豆好きで知られる山形県ですが、納豆汁や雪割納豆など納豆料理のヴァリエーションの広さでも有名です。それだけに説得力のある説です。加えて、夏が暑い山形県は冷たい麺類を好むことでも知られていますので、ほぼ間違いなく冷やしおろし納豆うどん発祥の地なのだと思います。
納豆を食べる際には、最低でも50回、理想的には300回混ぜろ、と言われます。納豆の美味しさも栄養分もネバネバのなかにあるので、白くなるまでかき混ぜるのが良いとされるわけです。それは、北大路魯山人が発見したことだとも聞きます。一方、大根おろしは、納豆のネバネバを消すと言われます。納豆と大根おろしは、栄養的には良い組合せとされますが、ネバネバが消えてしまうのでは、如何なものかと思います。ところが、冷やしおろし納豆うどんは、かき混ぜると白くフワフワになっていきます。なぜなのかは、よく分かりません。ひょっとすると卵の黄身がいい仕事をしているのかもしれません。(写真出典:tablemark.co.jp)