2026年11月6日金曜日

Tokyo Film 2026(3)

「お通しください、ご先祖さま」 ラヴ・ディアス監督 2026年フィリピン ☆☆☆☆ー

巨匠ラブ・ディアス監督は、前作「マゼラン」で、欧州がフィリピンにもたらしたものに疑問を投げかけましたが、本作では、さらに進んで民族主義的な歴史認識を強く打ち出しています。1617年、フィリピンのさる島で、布教の名のもとに強権統治を行う神父と苦しめられる地元民が描かれています。本作も、ディアス監督のお決まり、白黒、固定カメラ、タガログ語、劇伴なしというセッティングになっています。いかにもスロー・ムーヴィーの代表的作家らしい映画ではありますが、上映時間が150分と、前作同様、ディアス監督としては短めになっています。また、シーンの展開も、以前に比べ早くなっているように感じました。民族主義的スタンスを強めていることと関係しているのかもしれません。主人公が、神父と地元の女性の間に生まれたハーフであることも象徴的です。ちなみに、1617年は、マニラ湾沖でスペインとオランダによる 第二次プラヤ・ホンダの戦いが行われています。結果はスペインの勝利となり、フィリピンの植民地時代が長く続くことになりました。

 「DAU」 イリヤ・フルジャノフスキー監督 2026年ドイツ・フランス・スウェーデン ☆☆☆

上映時間は、休憩15分を含む217分。強烈な映像、早いテンポ、すざまじい音響で押しまくる前半には圧倒されました。しかし、映像へのこだわりの割にはプロットの詰めがが甘いように思いました。後半になり、テンポと映像のキレが落ちると、プロットの弱さが歴然となり、テンションがかないり落ちてしまいます。DAUシリーズの映画3作目として集大成的な位置づけと聞きます。2006年にスタートしたDAUプロジェクトは、クレイジーな巨大アート・プロジェクトとして知られます。ほぼ素人が演じた出演者は膨大な数に上り、ロケ地も多く、ウクライナのハルキウに作られた巨大なセットではスタッフ・キャストが数年間生活しながら撮影したとも聞きます。撮影された膨大な記録は、シリーズ以外に13本の映画、TVシリーズ、250冊の書籍、150万の写真データ等々に展開されました。主人公のモデルは、ノーベル賞受賞者にして原爆の父とも言われるソヴィエトの物理学者レフ・ランダウです。ギリシャの指揮者が演じていますが、これは見事なキャスティングだったと思います。ソヴィエトの全体主義と兵器製造を強制された物理学者の良心の葛藤がテーマとなっています。ソヴィエト時代の映像的再現、ランダウの自由恋愛主義といった個性が映画のウリなのでしょうが、どうも映像面に注力しすぎて、テーマの深掘りが疎かになる、あるいはうまく伝わらない結果になっているように思います。繰り返しになりますが、映像の作り込みの凄さは映画史に残るほどのものだと思います。

「サバイバル」 ロルフ・デ・ヒーア監督 2022年オーストラリア ☆

セリフのない映画、言い換えればセリフに頼らない映画は、当然、チャレンジングな映画になります。そういう意味で楽しみにしていたのですが、ピンと来ませんでした。砂漠に置き去りにされた女性がサバイバルをかけて行動していきます。彼女がそこで出会う光景や状況は、人類の歴史を象徴しています。特定の地域の歴史ではなく人類の歴史であることを強調するために特定の言語を使わない、つまりセリフなしが選択されたものと思います。矮小化、ステレオタイプ化された人類の歴史には何の思想も感じられません。すべては彼女の夢だったという落ちも感心しません。総じて言えば、小賢しいだけの映画でした。ロルフ・デ・ヒーアは、かつてマイルス・デイビスが唯一出演した映画「ディンゴ 」(1991)を監督しています。マイルスが、演奏し、セリフも言っている、ということだけが印象に残るヒドく退屈な映画でした。

今年の東京国際映画祭のグランプリは、北マケドニア出身のミルチョ・マンチェフスキー監督の「妹兄とマンホールの蓋」でした。見たかった映画の一つですが、タイミングが合いませんでした。ちなみに今回の審査委員長はロルフ・デ・ヒーア監督でした。

Tokyo Film 2026(3)