2026年6月19日金曜日

ビルケンシュトック

Arizona
ドイツの靴メーカー・ビルケンシュトック社の創業は1774年とされます。教会の公文書に、その年、創業者ヨハン・アダム・ビルケンシュトックがシュー・マイスターとして認められたことが記録されているようです。日本に当てはめれば、安永3年創業ということになります。ビルケンシュトックの代名詞と言えば、フットベッドと呼ばれる内底を持ったサンダルです。フットベッドは、足裏の形状に合わせた立体的な形をしています。創業者の曾孫であるコンラッド・ビルケンシュトックが、19世紀末に原型を開発しました。当時、靴は工業生産されるようになっており、伝統的な靴職人は、靴の修理屋、あるいは特別な靴の製造者へと2分化されます。コンラッドは、医学的な個人向け整形靴の製造を行うようになります。

当時、医学用整形靴は金属の底でしっかり固定することが常識でした。しかし、コンラッドは、正しい歩行をサポートするローリング機能に注目し、足の形状にぴったりの柔軟なインソールという結論に達します。それは治療や補正に留まらず、正しい歩き方を実現する健康靴というべきものでした。研究を重ねた結果、1913年、コルクを混ぜたソールにたどり着き、フットベッドと名付けることになります。当時の広告には、まさに素足がベッドの上にあるイラストが使われています。フットベッド靴は、整形外科の世界で評判を呼び、負傷した帰還兵などに喜ばれたと言います。つまり、フットベッドは、医学の世界で生まれ、医学の世界に留まっていたわけです。それを変えたのは、コンラッドの孫であるカール・ビルケンシュトックでした。

カールは、フットベッドの素材を、コルクと天然ゴム由来のラテックスを混合したものに進化させます。そして、個々人の足に合わせて注文生産されていたフットベッドを、多くの人の足形に基づき標準化された製品へと進化させます。さらに、当時のブルータリズムの影響を受けた大胆なデザインのフットベッド・サンダル” Arizona”を発売します。我々の知るビルケシュトックが誕生したわけです。しかし、当初、医療用にオリジンを持つビルケンシュトックのサンダルは、医療従事者やごくマニアックな人々の興味を引いただけでした。そして、カウンター・カルチャーが世界的広がりを見せると、ヒッピーたちが注目するところとなります。旧体制打破を叫ぶ若者たちにとって、従来のサンダルの概念を覆したArizonaは、まさに象徴的な存在に見えたのでしょう。

個人的には、ビルケンシュトックを世界中に広めたのはスティーブ・ジョブスだったと確信しています。ジョブスは、経営が傾いていたアップル社に戻り、1998年のiMacにはじまり、iPod、iPhone、iPadと立て続けにヒットを飛ばします。同時に、ジョブス本人への注目も高まります。アップルを創業する前、ジョブスは、インド哲学に傾倒し、インドへ放浪の旅を行っています。その際、履いていたのがビルケンシュトックのArizonaであったことが、広く知られることになりました。これがビルケンシュトック・サンダルの転換点になったものと考えます。ちなみに、2022年、ジョブスが履いていたArizonaは、オークションで3,000万円という値が付けられています。また、2010年代、ビルケンシュトックの影響か、有名ブランドもサンダルを扱うようになります。

この10年で、ビルケンシュトックは売上を5倍に伸ばし、2023年には、 ニューヨーク証券取引所に株式を公開しています。商品のヴァリエーションもかなり広がっています。近年、人気が高いボストンというモデルは、サボ(木靴)に似たラインです。パンツ如何では普通の靴を履いているようにしか見えません。ビルケンシュトックのフットベッド・サンダルは、足底の密着感からして、靴とサンダルの中間的な存在だと思います。通常のサンダルのように、つっかけている印象はありません。ボストンは、究極のビルケンシュトックなのかもしれません。ただ、個人的には、あくまでもArizonaにこだわりたいと思います。私は、夏でも冬でも履いています。5年経っても、アッパーは劣化しません。ただ、さすがにソールはすり減ってきますが、店に持ち込めば、簡単にソール交換をしてくれます。(写真出典:amazon.co.jp)

ビルケンシュトック