2025年11月9日日曜日

Tokyo Film 2025 (3)

 「エイプリル」 フレディ・タン監督 2025年台湾 ☆☆☆+

フィリピンから台湾へ出稼ぎして家庭介護を行うエイプリル、彼女の介護を受ける台湾人の老人、それぞれの家庭が抱える問題が交差していくというプロットです。複線化されたプロットの構成、その処理が見事だと思います。ディスコミュニケーションを乗り越えてゆく家族愛、そして国や民族を超えてつながる思いやりを描いています。笑いあり、涙ありの実に良く出来た脚本だと思います。演出も腕の良さを感じさせ、キャストもいい演技をしていました。フィリピンや台湾の美しい風景も魅力的でした。台湾は、外国人労働者を積極的に受け入れ、定着化をねらっています。そうした現状を踏まえて製作された映画なのでしょう。監督は、弁護士出身という異例の経歴を持ちますが、社会を見る目の確かさを感じます。

「トンネル:暗闇の中の太陽」 ブイ・タック・チュエン監督 2025年ヴェトナム ☆☆☆

ヴェトナム戦争時のヴェトコンによるトンネル戦が描かれています。ヴェトナムで大ヒットを記録し、戦争映画としては史上最高の興業成績を上げたようです。ただ、その後、「赤い雨」という戦争映画も大ヒットし、アカデミー賞国際長編部門のヴェトナム代表にも決まっているようです。本作のようにヴェトコンのトンネル戦を正面から描いた映画は、ありそうでなかったように思います。トンネンル・シーンは、経験を持つ国だけあってリアルなものです。ただ、モティーフにこだわりすぎてプロットへの収斂が甘くなっています。トンネル戦を経験した兵士の多くはまだ生存しているはずです。彼らへの豊富な取材が、かえって徒になっているのではないかと想像します。監督の「輝かしき灰」(2022)が素晴らしかっただけに、期待したのですが・・・。

「ドリームズ」 ミシェル・フランコ監督 2025年メキシコ・アメリカ ☆☆☆+

移民問題は世界のホット・イシューです。欧州では移民の扱いを巡って右派が台頭し、米国では不法移民への弾圧が行われています。映画界においても、移民問題をテーマとする作品が多く制作されています。本作も、その一つですが、やや毛色の異なる作品です。米国の大金持ちの中年女性とメキシコ人の若いバレエ・ダンサーの情事の顛末をプロットとしますが、テーマとするところはメキシコ人から見た移民問題だと言えます。つまり、永年にわたり都合良くこき使ったあげく、今になって不法移民として弾圧するとは何事だ、ということなのでしょう。映画は、劇伴もなく、クリアなワイド画面で、あえて静かに展開していきます。その冷たい触感が怒りの強さを表しているとも言えます。監督は、高い評価を得ており、国際映画祭の常連でもあります。押しも押されぬ大女優ジェシカ・チャステインには、いつも驚かされますが、本作でも冷たさと熱さを見事に演じています。

「ヴィトリヴァル」 ノエル・バスタン/バティスト・ボガルト監督 2025年ベルギー ☆☆☆

何とも不思議な映画です。原題は「ヴィトリヴァル:世界で最も美しい村」となっています。村人の全てが親戚か知り合いというベルギーの小さな村の日常が、二人のパトロール警官を中心に、コミカルにスケッチされます。猥褻な落書き、連続する自殺というトピックはありますが、何も解決するわけでもなく、ドラマは一切ないと言えます。出演者はすべて素人であり当人役を演じています。主演格の二人だけは、本当の職業は警察官ではないようです。本作を、一般的な意味で映画と呼んでいいのかどうかも難しいところです。むしろ、一般的な映画を批判するために製作されたのかも知れません。自然主義映画の極致とも言える風変わりな映画ではありますが、抗しがたい魅力があり、飽きずに観れたことだけは間違いありません。二人の監督の腕の良さということなのかも知れません。

ヤシの木にプール