2025年11月5日水曜日

空港名

初めて米子鬼太郎空港を使いました。数機のC-2輸送機が駐機しており驚きました。C-2輸送機は、航空自衛隊が2017年に運用を開始した国産輸送機です。その偉容にも驚きましたが、米子鬼太郎空港が共用空港であることにも驚きました。共用空港とは、自衛隊や米軍と民間が共用する空港であり、千歳、三沢、小松等、国内に8ヶ所あります。戦闘機のスクランブル発進時、民間機は待機させられるという特徴があります。境港市にあるこの空港の正式名称は美保空港であり、民間使用区域は愛称として米子鬼太郎空港を使っています。もちろん、境港市出身の水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」に由来します。ちなみに、同じ県の鳥取空港は、鳥取市出身の青山剛昌の「名探偵コナン」にちなんで鳥取砂丘コナン空港という愛称を使っています。

空港は、交通施設なので、地名を名称とするのが本筋です。日本には、軍事基地を除き、126の空港があります。そのなかで、正式名称以外の通称・愛称を持つ空港は、なんと100ヶ所近くに登ります。例えば、東京国際空港は羽田空港、大阪国際空港は伊丹空港、中標津空港は根室中標津空港といった地名を分かりやすく伝えるケースもあります。また、中部国際空港はセントレア、神戸空港はマリンエアといったおしゃれ系もあります。しかし、他の多くは観光PRを主な目的とし、徳島阿波おどり空港、岩国錦帯橋空港といった名物・名所を織り込んだ愛称を持ちます。おいしい山形空港、おいしい庄内空港に至っては、目が点になります。大阪万博期間中の限定とはいえ、大分空港がハロー・キティ空港を名乗ったのにも驚きました。

この愛称ブームが、いつ、どこから始まったのかはよく分かりません。ただ、日本初の、そして日本で唯一の人名を冠した空港は高知龍馬空港であり、2003年から使っているようです。このあたりが空港の愛称ブームの始まりなのではないかと思われます。海外に目を転じると、人名のついた空港の多さに驚きます。ローマのフィウミチーノ空港のレオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港などは愛称ですが、逆に通称ミュンヘン空港の正式名称は フランツ・ヨーゼフ・シュトラウス空港です。NYのジョン・F・ケネディ空港やパリ=シャルル・ドゴール空港なども愛称ではなく正式名称です。空港名に限らず、海外では人名を公共施設、道路、あるいは軍用船などの名称とする傾向が明らかです。対して、日本では人名を使うことは希だと言えます。

前にも書きましたが、日本の軍用船に人名が使われないのは、明治天皇が沈没した際の悪影響を懸念したからとされます。以降、日本の伝統となっています。唯一の例外とされるのは旧防衛庁の砕氷艦「しらせ」です。日本にける南極探検の先駆者・白瀬中尉にちなむ名称ですが、一般公募で決められています。当時の防衛庁は、人名ではなく白瀬中尉の名を冠した南極の地名に基づくと苦しい答弁を行っています。しかし、明治天皇以前から、日本では人造物等の正式名称に人名を使わない傾向があります。恐らく神道の影響なのでしょう。日本では、万物に魂が宿るというアニミズムが、神道を通じて、いまだに息づいている面があります。例えば、それ自体が魂を宿すとされる軍船に、別な人格を有する人名を被せることはしない、ということなのでしょう。

米子鬼太郎空港で、名称以上に面白いと思ったのは、館内のアナウンスです。一部ですが、方言によるアナウンスが流れていました。もちろん、誰でも理解できる程度のマイルドな方言です。遠いところへ旅に来たという実感が湧いて、なかなか好感が持てました。他の地方空港でも取り入れたらいいのではないでしょうか。例えば、青森空港の定型的なアナウンスは、タレントの王林にさせればいいのではないかと思います。米子鬼太郎空港でも、どうせなら目玉おやじの声で「おい、鬼太郎、保安検査は早めに済ませるのじゃゾ」とアナウンスすれば、大いに盛り上がるのではないでしょうか。(写真出典:tottorizumu.com)

ヤシの木にプール