足立美術館は、不動産投資で財を成した足立全康によって、1970年に設立されています。足立全康は、この地の農家に生まれ、尋常小学校卒業後、商売に道に入っています。戦後は、大阪と安来を拠点に不動産投資に進出し、高度成長を背景に大成功を収めます。終戦直後、横山大観展で見た六曲一双の屏風絵「紅葉」に感動し、日本画の収集家としても活躍することになります。足立美術館の所蔵品は、彼の日本画コレクションを中心に構成されていますが、特に大観は「紅葉」を含む120点が所蔵されています。他にも、全て名品とまでは言いませんが、名だたる日本画家の作品がもれなくと言っていいほど揃っています。あたかも日本画150年の歴史をたどるかのようです。また、北大路魯山人の器や書の大コレクションは別な建物に収められています。
足立全康のコレクションに対する執念すら感じさせるこの美術館は、飯梨川沿いの谷間にあります。ここは足立全康の生家があった場所のようです。自慢の庭は、昭和の小堀遠州とまで言われた中根金作の作品です。その広さは5万㎡、東京ドームを超えています。借景される近隣の山も含めれば16万㎡を超えます。日本庭園の特徴とされる枯山水、白砂青松庭、苔庭、池庭、滝などが丁寧に配され、どこから見ても絵になる見事な庭園と言えます。庭園内の石は、すべて足立全康自らが収集したものと聞きます。彼は、庭園もまた一幅の絵である、と語っています。その端的な象徴とも言えるのが、ガラス越しに庭を臨む生の掛軸、生の額絵であり、その前は黒山の人だかりになっていました。庭においても、足立全康の執念を感じます。
その隙のない作庭にも驚きますが、それ以上に感心させられるのはメンテナンスの徹底ぶりです。葉っぱ一枚落ちていませんし、木々は見事な枝振りを完璧に保っています。それなりの庭園は、当然、メンテナンスされているわけですが、ここは完璧を期しているとしか思えません。専属の庭師は5人、今年は新人2名が採用されたそうです。訪れた時、ちょうど数名の庭師が作業を行っていましたが、実に細かな剪定を行っていました。景観のみならず、このメンテナンスも高く評価されての日本一なのでしょう。足立全康のこだわりが詰まった庭ですが、徹底的なメンテナンスにも彼の強い執念を感じさせられます。足立全康は、1990年に91歳で亡くなっています。死後35年を経てなお彼の執念は生き続けていると言えるのでしょう。
日本三大庭園と言われるのは、水戸の偕楽園、金沢の兼六園、岡山の後楽園です。いずれも江戸期に大名が作った広大な回遊式庭園ですが、三大庭園とは、三つの大庭園のようにも思えます。西洋でそれに相当するのが王宮等の幾何学模様の庭園だと思います。西洋庭園は、王が自然をも支配していることを示そうとしているように見えます。対して日本庭園は、自然との調和を図ろうとしていると言われます。もちろん、庭である以上、いずれも人工的なものではありますが、日本庭園の場合、理想とする自然の景色を再現しようとしている点が特徴的なのだと思います。その背景には、自然のなかの人間という思想があり、自然対人間という西洋的な思考とは異なるということなのでしょう。その違いを煎じ詰めれば、多神教と一神教の違いに行き着きます。日本の文化や思想の多くは、自然災害の多さ、メリハリの効いた四季の移ろいといった環境が生んだものなのでしょう。(写真出典:kankou-shimane.com)
