| 廃棄衣料の山 |
この警句を、売る側から見ると、価格戦略の問題ということになります。マーケティングの基本となるのは、顧客ニーズの存在とソリューションの提供です。ソリューションの提供を構成するのはマーケティングの4Pと呼ばれる、 Product(製品)、 Price(価格)、 Place(流通)、 Promotion(販売促進)です。それぞれが独立しているのではなく、相互に深く関連しているので、マーケティング・ミックスとも呼ばれます。なかでも価格戦略は、最も難しいテーマと言えます。単純に言えば、原価に利益を乗せれば価格となります。しかし、実際には、市場の競合状況の分析、それを踏まえた市場戦略なしに値決めすることはできません。典型的な市場戦略としては、市場シェアを拡大する、特定顧客を囲い込むといったものがあります。
市場拡大期に市場シェア拡大をねらう戦略は王道と言えます。シェア拡大が利益増に直結するからです。その際、重視されるのは、生産量を増やして製造コストを下げる大量生産体制の確保、販売店を増やすといった流通経路の拡大、そして各種キャンペーンといった販売促進策です。しかし、市場が飽和状態になると、これらの戦略は逆回転を始め、コスト倒れになっていきます。成功体験を持つ経営者たちは、シェア拡大路線にこだわり続けます。そこで登場しがちなのが、低価格戦略です。当初は、そこそこ市場シェアを獲得することになります。しかし、安売りは安売りに負けるという鉄則が立ちはだかります。泥沼の値引き競争は、行き過ぎたコスト・カットや製品の劣化へとつながります。体力と顧客を失った企業は市場から退場することになります。
もちろん、そこで新たなビジネス・モデルやマーケティング戦略を展開する、あるいは画期的なコスト・ダウン手法を開発した企業は、ゲーム・チェンジャーとして生き残っていきます。また、ゲリラ的に低価格をもって市場に殴り込みをかける企業もあります。さほど大きくない市場では成功することもありますが、やはり低価格戦略は利益を生みにくいので企業は短命に終わることになります。将来に渡って存続し、事業を継続していくことが前提とされる企業にとって、安売りは避けるべき戦略だと言えます。長々と書きましたが、”安物買いの銭失い”は、売る側にとっても”安物売りの銭失い”なのだと言えます。いずれにしても、マーケティングの基本であるニーズの存在とソリューションの提供を忘れないことだと思います。
呉服の話になりますが、父親から、上質な生地の着物は、仕立て直して、代々受け継ぐことができると聞きました。今は散逸していますが、私もいくつか受け継ぎました。それを可能にしているのは、着物の直線裁ちという手法があるからです。直線裁ちは、生地を直線的に無駄なく裁断します。型紙を使った西洋の立体裁断という手法では、多少の手直しは別として、仕立て直して再利用することは難しいと言えます。昨今、若い人に古着が大人気で、若い人の多い街には古着屋が並んでいます。実は、江戸期にも古着屋が繁盛していました。ただ、庶民は、古着を買ってそのまま着るのではなく、仕立て直して着ることが前提だったようです。仕立て直しは、SDGsにかなう着物の底力だと思います。(写真出典:.knitmag.jp)