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函館の夜景 |
選定の基準も、夜景観光士なる資格も、認定している団体も、なんだかよく分かりませんが、少なくとも、詳しい人たちによる投票ですから、意味のある結果なのでしょう。かつて、夜景と言えば、夜に高いところから見下ろす街の景色を指していたと思います。ところが、新三大夜景では、北九州や横浜が選ばれていることからして、見方が異なるようです。要は、街や建物、あるいは工場も含めてライトアップに熱心であることが評価されているように思えます。夜景観光コンベンション・ビューローが選定した世界新三大夜景には、モナコ、長崎、上海が選ばれています。上海では、高所ではなく、外灘から眺める対岸の浦東ビル群の夜景が観光名所です。中国共産党が、中国の経済的躍進の象徴として設計したかのようなライトアップになっています。
50~60年前と比べれば、ライトアップされた建物や街区は、圧倒的に増えました。LEDの登場によって、コストが安くなったことが主な要因なのでしょう。ライトアップだけでなく、クリスマス時期になると、各地で派手なイルミネーションも競われますが、やや過熱気味だと思います。イルミネーションの起源は、マルティン・ルターにさかのぼり、木の枝に多くの蝋燭を灯して星空を再現しようとしたとされます。日本でも、明治時代からイベントなどで行われてきました。一方、日本で、初めてライトアップされた建造物は、1963年、神戸ポートタワーだったようです。ライトアップが広がることになったのは、照明デザイナーの石井幹子氏の貢献が大きかったのだと思います。1989年に彼女が手がけた東京タワーのライトアップがきっかけになったようです。
私のお気に入りの夜景は、函館山から見る函館の夜景、将軍塚から見る京都の夜景、そしてエンパイヤ-・ステイト・ビルから見るNYの夜景です。思うに、夜景の美しさは、ただ光にあふれキラキラしていれば良いというものではなく、光と闇のコントラストが大事なのだと思います。函館は暗い海とのコントラスト、京都は三方を囲む暗い山とのコントラストが美しいと思います。NYは暗い高層ビル群の谷間に続くヘッドライトとテールランプの川が見事だと思います。マンハッタンは、一方通行だらけなので、道によって白い光と赤い光の川ができるわけです。いずれも見事な光と闇のコントラストを作っていると思います。また、これらに共通するのは、夜景の近さです。夜景は、遠すぎても、近すぎても、塩梅が悪く、ちょうど良い距離感が大事だと思います。
どうやら、近年、夜景という言葉の定義が混乱しているのではないか、とも思えます。夜の景色という意味では、山の上から見る夜の街も、ライトアップされた構造物や街区も、いずれも夜景ということになるのでしょう。ただ、昔から夜景と呼ばれてきたのは、人の営みが作る光と自然の闇とのコントラストであり、いわば天然の夜景と言えます。一方、新三大夜景などは、夜景というよりも夜の景観とでも呼ぶべきではないでしょうか。LED以降の夜の景観は、養殖の夜景と言ってもいいのでしょう。ちなみに、LED以降、日本の都市部の夜は、やたら明るくなりました。明るければいいというものでもないように思います。東日本大震災後に節電が求められた頃、東京の街は闇に沈んでいました。今となっては、少し懐かしくもあります。(写真出典:jre-travel.com)