2025年9月18日木曜日

パレード

マンハッタンでは、ほぼ毎週、何らかのパレードが行われています。独立記念日など国民的な祝祭日はもちろんですが、多いのはエスニック系のパレードです。なかでも有名なのが、3月17日に行われるアイリッシュのセント・パトリックス・デーのパレードです。NYは、アイリッシュの街でもあるので大盛り上がりです。私が、最もNYらしいと思うパレードは、11月のサンクス・ギビング・デーに行われるメイシーズ・デー・パレードです。百貨店のメイシーズがスポンサーとなり、セントラル・パーク・ウェストを山車や巨大なバルーンが練り歩くパレードです。1924年から続くNY伝統のパレードは、全米に向けてTV中継も行われます。このパレードが、ホリデー・シーズンの始まりを告げ、クリスマス・セールの幕開けともなります。

パレードとは、祭事、祝い事、イベント時等に、見物人に見せるために屋外を行列で進むことと定義されています。その語源は、ラテン語の準備するという意味の”parare”だそうです。つまり、自然発生的なものではなく、人に見せるためにしっかり準備された行列や行進ということなのでしょう。その始まりについては、4000年前のバビロニアで、新年を祝うために、神々の像を掲げて人々の間を練り歩いたという記録があるようです。人々が神殿にお参りすれば済むことのように思いますが、恐らく神殿は、誰もが気軽に入れる場所ではなかったのでしょう。今でも、洋の東西を問わず、神仏像は、街を練り歩き、御利益を届けています。日本の神輿も同じ系統です。偶像崇拝を厳しく禁じるイスラム教ですら、祭事の行列はあります。

宗教的パレードの次に登場したのは軍事的パレードだったと思われます。古代ローマ名物とも言える凱旋パレードは、建国間もない王政の時代から行われていたようです。紀元前8世紀頃のことです。古代ギリシャから伝わった凱旋式がパレードへと進化したものと思われます。実に豪華でスペクタルにあふれたパレードであり、ローマ市民を熱狂させたようです。領土拡大の一途をたどっていたローマを象徴するイベントと言えます。世界帝国となっても、将軍たちは、ローマ市民の賞賛を浴びることにこだわったわけです。もちろん、市民に選挙権があり、政治を左右する力を持っていたからです。江戸期までの日本に、凱旋パレードがあったとは聞いたことがありません。いずれにしても、ローマの凱旋パレードが、後の世のパレードの原型になったのでしょう。

パレードの目的は、一体感醸成や組織強化なので、市民参加型のパレードが多くなります。市民が参加しないパレードの典型は、国家元首や司令官に軍の忠誠や統制の高さを示す観兵式、いわゆる軍事パレードです。軍事力の誇示ではありますが、軍の士気高揚と組織強化、さらには国民に誇りを持たせて結束を図るねらいもあります。軍事パレードは、全体主義国家ほど派手になります。国民の犠牲のうえに軍事強化を図っているので、国民の納得を得る必要があるのでしょう。さらに言えば、全体主義国家が最も恐れるのは革命です。ロシア、中国、北朝鮮等の軍事パレードは国内への威圧でもあるのでしょう。また、革命の本場で労働運動や市民運動の盛んなフランス、統一国家かどうかも怪しいインド等の軍事パレードも、国内への威圧のように思えます。

パレードに音楽は付き物です。ローマの凱旋パレードにも楽隊が同行していたようです。原題の軍事パレードでも軍楽隊の演奏は欠かせません。世界初の軍楽隊とされるのは、17世紀に誕生したオスマン・トルコの“メフテル”です。メフテルの演奏する曲に触発されて、モーツァルトのトルコ行進曲をはじめとする様々な行進曲が生まれました。ただ、軍楽隊の誕生以前から、行軍の際に同行する鼓笛隊は存在しました。大昔から戦場で合図や信号として使われていた太鼓がルーツだとされます。それを行軍の際に使い始めたのは、15世紀末のことであり、当時、最強と言われたスイス傭兵が最初だったようです。いずれにしても、鼓笛隊や軍楽隊は、後にマーチング・バンドとなり、世界中のパレードで活躍しているわけです。(写真出典:jiji.com)

南都焼討