監督:クリストファー・マッカリー 2025年アメリカ
☆☆☆
一言で言うなら、超一流の暇つぶし といったところだと思います。ハラハラドキドキのアクション・シーン、長尺が苦にならないほどの良いテンポ、予算を惜しまない豪華なセットや小道具、お馴染みの音楽の上出来なアレンジ、オーラの衰えは隠せないもののトム・クルーズの魅力も健在です。歴代ベスト5に入るという予算をかけて、超一流のスタッフが結集して作った映画は、さすがというレベルだと思います。ただ、あくまでもアクションが売りであり、ドラマというドラマが展開されるわけでもなく、過去の作品のダイジェストのようなシーンも多く、やはり一級の暇つぶしだと思うわけです。ま、そもそも映画は暇つぶしだろ、と言われれば、否定しがたいところではありますが。
ほぼ代役なしでトム・クルーズが演じるアクション・シーンは、シリーズの売りの一つです。マーベルのCGを多用したアクションが幅を利かす時代にあって、実写アクションはCGを超えるほどのアイデアが必要になります。結果、本シリーズやジョン・ウィック・シリーズのアクション・シーンは、実に見応えのあるものになっています。今回の深海、空中という設定自体は目新しいものではありませんが、練り上げられたアクションはなかなかのものです。マーベルの逆張りと言えば、ロスト・ブレット・シリーズのカー・スタントも見事なものです。フランスの生アクションは、世界最高レベルにあると思います。ただ、映画としては、どうしてもアクション・シーン中心となり、ドラマ性に欠けるきらいがあります。本作も同様と言えます。
本シリーズの原案はTVシリーズ「ミッション・インポシブル(邦題:スパイ大作戦)」です。日本では、1967~1973年にかけて、全171話が放送されました。007人気を背景に生まれたシリーズですが、実行不可能と思われる作戦を次々とこなしていく痛快さで大人気となりました。当時としては、TVの枠を大きく超えた番組だったと思います。ラロ・シフリンの音楽や冒頭の定番「おはよう、フェルプス君」などは大流行したものです。ピーター・グレイブス、マーティン・ランドー等が大いに名前を売りました。後にスタートレックのスポック博士役で知られることになるレナード・ニモイも忘れてはいけません。設定、奇抜なアイデア、音楽、そしてチーム・プレイがTVシリーズの魅力だったのでしょうが、トム・クルーズ版も、そこは継承しています。
シリーズ8作目となる本作は、回想シーン、冗漫なラスト、意味深なタイトルからして、これがシリーズ最終作品なのではないかと思えます。そもそも本作は、前作「ミッション・インポシブル/デッドレコニング PART ONE」(2023)の後編であり、Part Twoとすべきところですが、わざわざ”ファイナル”という言葉を入れてきたには訳があるものと思います。ただ、正式なコメントはありません。名物とも言えるトム・クルーズの生アクションについては、アイデアも体力もそろそろ限界だと思います。人気シリーズだけに、プロダクション・サイドとしては、フレームを残したいはずです。ひょっとすると、終了するか、CGを使ってトム・クルーズで続行するか、あるいは別な役者を立てるか、意見がまとまっていないのかもしれません。
登場するだけでスクリーンが映画らしくなる俳優がいるものです。トム・クルーズもその一人だと思います。若くして名が知られ、「トップガン」(1986)で、一躍、世界的大スターとなったのが弱冠25歳のときです。以来、評価や興業成績は様々だとしても、常に話題作に出演してきました。それも単純な娯楽作品ばかりではなく、著名な監督とのコンビも多々あります。こういう俳優も希有な存在だと思います。また、失読症をカルト的な新興宗教サイエントロジーに出会ったことで克服したという話も有名です。以来、トム・クルーズは、サイエントロジーの広告塔として機能している面もあります。本作に登場する見えない敵である”Entity”は、どこかサイエントロジーの宿敵ジヌーを思わせるところがあり、多少の気持ち悪さを感じました。考えすぎなのでしょうが・・・。(写真出典:eiga.com)