2025年5月1日木曜日

マクア渓谷

沖縄本島を一周するドライブをしたことがあります。と言っても、幹線道路を使ってのことであり、ほぼ一周といったところです。実は、かつてオアフ島でも同じチャレンジをしました。オアフ島の面積は、沖縄本島よりも3割ほど広くなっています。ところが一周ドライブにかかる時間は、沖縄本島の方が3倍近くかかります。所要時間は、道路事情如何でもありますが、島の大きさではなくルートの長短によるところが大きいと言えます。オアフ島一周ドライブのモデルコースは、島の中央と東側を回るだけであって、島全体をカバーしていません。除外されているのは、島の西側、コオリナの北、ノース・ショアの南に広がるマクア渓谷周辺です。除外される理由は、この一帯が、米軍の広大な演習場になっているからです。

マクア渓谷は、ハワイ民族生誕の地とされます。マクアとは”母”を意味する言葉です。地質学的にも、ここがオアフ島が誕生した地であるようです。ハワイ諸島は、海底のマグマが噴き出して作られた島々です。マグマだまりは同じ場所にあっても、噴火で生まれた島はプレートの移動とともに北西へと移動し、新たな島が次々と生まれます。マクア渓谷は、オアフの最初の噴出口だったわけです。ハワイも琉球も、かつては独立した王国でした。ハワイは、1898年、アメリカに併合され、後に50番目の州となります。琉球は、1879年、日本に併合され、米軍の占領時代を経て1972年に返還されています。太平洋戦争は、日本軍によるパール・ハーバー奇襲で始まり、米軍の沖縄侵攻で地上戦が終わります。国境の島々の宿命を感じさせます。

やや古いデータですが、ハワイにおける米軍施設の総面積は約10万ha、州全体の6%弱を占めるとされます。沖縄の米軍基地は、約1.9万ha、県全体の8%、本島に限れば15%に相当します。しかも、敷地面積で見れば、日本の米軍基地の70%が沖縄に集中しています。ハワイに駐留する軍人は42.000人、その家族も加えると10万人、さらに国防省関係者、軍属、退役軍人も合わせると総計は26万人、州の人口100万人の26%に相当します。沖縄には米軍軍人が約25,000人、家族や軍属を合わせると5万人を超えるとされます。沖縄県の人口は145万人ですから、人口比は4%弱になります。軍が駐留することによる経済的効果は否定できないとしても、ハワイ、沖縄ともに、基地の存在が過大な負荷になっていると言えます。

沖縄県民の基地返還に関する長い戦いは、私たちも知っていますが、実は、ハワイでも返還運動は行われてきました。とは言え、基地の問題は、戦略上の必要性が最優先されるので、中国やロシア等の軍事的脅威が完全に消えない限り、簡単には進みません。ただ、マクア渓谷に関しては、興味深い展開があります。射爆場でもあった渓谷の山肌はむき出しになっていたようですが、1998年、地元団体が、国家環境政策法違反として、軍を訴えます。多数の絶滅危惧種に関する環境調査を行っていないということが争点でした。裁判所は、訴えを認め、軍に環境調査が終了するまで実弾射撃訓練の中止を命じます。今やマクア渓谷は緑を回復し、演習場であることは変わらずとも、軍は環境保全にも十分に配慮し、環境団体の立ち入りも認めているようです。そして、2023年、軍は渓谷における実弾射撃を永久に止めると発表しました。

普天間基地の辺野古移転に関しては、沖縄県が環境問題をメインに相当抵抗しましたが、結果的に工事は進んでいます。国も法律も異なるので、何とも言えませんが、マクア渓谷の場合、絶滅危惧種が大きなポイントだったのかもしれません。2013年、時の安倍内閣は「嘉手納以南の基地返還計画」を発表します。人口密集地域の基地1,000haを順次返還するという計画でした。しかし、内実としては、単純に返還される土地はごくわずかに過ぎず、多くは移転等の条件付となっていました。普天間基地についても、キャンプ・シュワブ(辺野古)への移転が明記されています。名前に偽りありと言わざるを得ません。安倍晋三氏らしいやり口です。なお、海兵隊のグアム移転は始まっています。だた、これも全面移転ではなく、約半数が移転するという計画になっています。(写真出典:htourshawaii.com

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