監督: 佐古忠彦 2025年日本
☆☆+
那覇の桜坂劇場は、牧志の奥のディープな界隈にあります。1952年に芝居小屋「珊瑚座」としてスタートし、直後に映画館に転身したようです。現在は、3スクリーンを持ち、ライブや文化活動も行うアートシアターになっています。全国的にも名前が知られており、一度は行ってみたいと思っていました。桜坂劇場は、日に多数の作品を上映するスタイルをとっています。今回は、佐古忠彦監督の新作も上映されていたので見てきました。監督はTBS職員で、かつてアナウンサーやコメンテーターを務めていた人です。2017年に処女作となるドキュメンタリー「米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー」をヒットさせ、以降、沖縄に関するドキュメンタリーを撮り続け、本作が4作目となります。瀬長亀次郎は、占領下で那覇市長、本土復帰後は衆議院議員を務めた政治家です。終始、社会運動家というスタンスを崩さず、そのカリスマ性においては田中角栄と並び立つ政治家だと思います。監督の処女作カメジローには期待していたのですが、大ガッカリでした。ドキュメンタリー映画と呼べるような代物ではありませんでした。ドキュメンタリー映画とは、作家の視点で捉えた現実を、フィクションを交えずに表現する映画形態だと思います。カメジローは、単に瀬長亀次郎の軌跡を紹介するだけの作品であり、TV特番の域を超えていませんでした。残念ながら、今回の「太陽の宿命」も全く同様にTV特番そのものでした。対象としたのは、沖縄県知事を務めた大田昌秀と翁長雄志であり、二人の因縁を通じて沖縄の基地問題をクローズアップしています。
大田昌秀は、鉄血勤皇隊員として沖縄戦を経験し、戦後は早稲田大学、シラキュース大学に学び、琉球大学やハワイ大学の教授を勤めた人です。1990年、革新統一候補として県知事選に立候補し、保守系の現職を破って当選します。大田は、平和の礎建立など記憶継承事業に取り組む一方で、1995年に起きた米兵少女暴行事件を機に日米地位協定見直しを訴える行動を起し、米軍用地の未契約地主に対する強制使用の代行手続きを拒否します。これは最高裁まで争われ、県が敗訴しています。普天間基地返還の条件として国が示した辺野古移転にも真っ向から反対し、反基地か経済か、と迫る自民党に追い落とされる形で知事の座を降ります。その際、大田攻撃の先頭に立っていたのが、自民党の県議で後に県知事になる翁長雄志でした。
2015年、沖電社長から知事に転身した仲井眞弘多の任期満了に伴う知事選が行われ、那覇市長だった翁長は、自民党を離党して立候補します。辺野古移転推進派だった翁長は、移転反対へと転じていたのです。翁長を推した自民党県議たちも離党、野党も翁長支持に回り、翁長は当選します。県知事としての翁長は、移転に関する国と自民党からの圧力と戦い続けます。皮肉にも、それは20年前、翁長が批判し続けた大田が置かれた構図とまったく同じでした。翁長は県知事在職のまま、2018年、膵臓がんで亡くなっています。大田も翁長もハマった基地反対か経済振興かというジレンマは、そもそも自民党が作り出した二者択一の罠とも言えます。素人考えではありますが、この二者択一フレームから離れない限り、沖縄の基地問題の進展はあり得ないのではないでしょうか。
自民党政権は、日米安保条約ありきの発想しかできなくなっているように思えます。本来的には、日本国として国の安全をどう考えるか、つまり国防に関する基本戦略が、まずもってあるべきではないかと考えます。そのうえでの日米安保なのだろうと思います。現状は、憲法よりも安保が優先され、米軍の言いなり状態です。ただ、日米安保が効果を発揮するのは平時のみです。戦時にあっては、米国の戦略・戦術が優先され、日本の安全は後回しにされる恐れもあります。安全を他国の良識に委ねるという現行憲法上の根本的な問題点が、結果的には日米安保にも反映されているわけです。もちろん、これは根本論であって、憲法改正も避けがたい議論です。沖縄の基地問題に関しては、その前にできることが他にもあるのではないかとも思います。いずれにしても、県も国も二者択一論から抜け出すことが求められると思います。(写真出典:natalie.mu)