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パレ・ブルトン |
サブレーとは、フランス語で砂を指します。そのサクサクとした食感を言い表しているのでしょう。また、サブレ=シュル=サルトの街で作られた、サブレ公爵夫人が考案したといった説もあります。サブレーと言えば、日本では、鎌倉の豊島屋の鳩サブレーが最もよく知られていると思います。明治30年頃、初代店主が、初めて食べたビスケットに感動し、試行錯誤の末、完成させました。鶴岡八幡宮楼門の額にある”八”が向き合う鳩になっていること、境内には鳩が多いことから鳩をモチーフにしたとされます。また、外国航路の船長をしている知人が、これはサブレーに似ていると言ったことから命名されたようです。初代店主は、サブレーという聞き慣れない言葉ながら、三郎に似ていると気に入ったようです。鳩三郎と命名されていた可能性もあったわけです。
私は、サブレーのなかでも、特にブルターニュ名物のパレ・ブルトンが大好物です。豊かなバターの風味、サクサク・ホロホロの食感がたまりません。パレ・ブルトンは、人を幸せにする食べ物です。円くて薄いガレット・ブルトンヌと混同されがちですが、パレ・ブルトンは厚みがあります。英仏海峡と大西洋に突き出したブルターニュ半島一帯は寒冷な土地柄であり、酪農と塩で知られます。リンゴ酒のシードル、あるいはそば粉で作るクレープのガレットも有名です。フランス語のガレットとは、円くて薄いものを意味し、クレープでもサブレーでも使われているわけです。ブルターニュと言えば、ファー・ブルトンも大好物です。ミルクの風味が濃く、どっしり、かつプルプルとした食感が大好きです。乳製品好きにとって、ブルターニュは聖地の一つだと言えます。
ブルターニュとは、ラテン語の”ブリトン人の土地”を語源とします。もともとケルト人が住んでいたブルターニュは、紀元前1世紀、古代ローマに支配されます。ローマが撤退すると、5世紀末には、ブリテン島から、同じケルト系のブリトン人が大量に移住してきます。北欧からブリテン島に侵攻してきたアングロ・サクソン人に押し出されたと言えるのでしょう。ブルターニュの歴史は、英仏両大国の間で揺れ動いていましたが、16世紀には完全にフランスに組み込まれています。ちなみに、サブレーに近い食感の食べ物に、スコットランドの伝統菓子のショート・ブレッドがあります。ショートはサクサクした食感を指し、ブレッドとは焼き菓子を意味しているようです。サブレーに比べると、少しバターの比率が低くなっています。
話をビスケットに戻すと、その祖先は、保存性を高めるために二度焼きしたパンだと言われます。農耕発祥の地メソポタミアでは、数千年前からバビロニア人が二度焼きしたパンを旅に持ち歩いていたとされています。ビスケット/クッキーの直接的元祖は、7世紀頃のペルシャで砂糖の普及とともに生まれました。やはり旅の保存食だったようですが、欧州へと広がっていきます。それが宮廷で出されるお菓子になっていったのは16世紀のことだったようです。何でもクッキーと呼ぶアメリカですが、南部にはビスケットという食べ物も存在します。イギリスのスコーンに近い代物です。酵母による発酵ではなく、重曹などの膨張剤を使った、いわゆる速成パンの一種です。日本では、ケンタッキー・フライド・チキンのメニューの一つとして知られます。(写真出典:brittanytourism.com)