2025年3月6日木曜日

アマゾンと楽天

寄席の楽屋で、高齢の師匠が中堅と世間話をしています。師匠が「あの若手は、随分と人気があるようだね」「そうですね、いつも客席は満席ですよ」「最近じゃ海外でも知られるようになったのかい?」「どうでしょうか」「だってよ、この前、楽屋に南米から荷物が届いていたよ」「師匠、それはアマゾンという通販会社ですよ」結構前に聞いた小噺ですが、実話でもあったようです。アマゾンと言えば、今やアマゾン川よりもAmazon.comの方が有名なのだと思います。アマゾンは、1994年、ヘッジ・ファンドのシニアVPだったジェフ・ベゾスによって創業されています。ベゾスは、アマゾンという語感が気に入り、アマゾン川のような世界一のオンライン書店を作りたいと願って社名を決めたといいいます。

インターネットの起源となったのは、1台のコンピューターを各地のユーザーたちが利用するタイム・シェアリング・システムだとされます。1960年代後半から運用されました。私も、仕事で使ったことがあります。1980年頃のことですが、アメリカの大型コンピューターをタイム・シェアしました。1969年には、パケット通信を使ったコンピュータ・ネットワークであるアーパネットが開発されます。その後、1986年に学術研究用のNSFネット、1988年には商用インターネットの運用が開始されます。そして、1990年、ティム・バーナーズ=リーがワールド・ワイド・ウェッブ(WWW)を開発し現在に至るインターネット環境がスタートしています。また、この年、ウィンドウズ3.0が発売され、コンピューターが身近なものになります。

1990年代初めには、オンライン・ショップが登場していたようですが、いわゆるe-コマースの一般化は、1995年のAmazon、そしてネット・オークションのeBayの創業とともに始まります。プリンストン大でコンピューター・サイエンスを専攻したベゾスは、いち早くネットの可能性に着目したのでしょう。開業にあたり、ベゾスはオンライン書店営業のために必要な条件を精査し、シアトルがベストの立地と判断し、NYから移転しています。ネットの特性を深く考えたうえでの判断は、既にベゾスの成功を決定づけていたように思います。また、この年、ウィンドウズ95が発売され、世界中で爆発的にコンピューターが普及することになります。我が家にもパソコンとインターネットが入り、恐る恐るでしたがアマゾンの利用も始めました。

日本では高い米国の本、日本では入手困難なCDが買えることが魅力でした。送料はかかりますが、ペーパー・バックやCDでは大した額になりません。1997年には、三木谷浩史が楽天市場を開き、ほどなくアマゾン・ジャパンも開業します。この2社が、日本のEC市場を牽引するわけですが、その性格はまったく異なっていました。小売業であるアマゾンに対して、楽天は店舗を貸す不動産業のようなものです。当初、アマゾンを圧倒していた楽天ですが、今やアマゾンに首位の座を明け渡しています。Eコマースやインターネットの可能性を自ら広げてきたアマゾンに対し、楽天は豊富な資金を元手に買収を重ね、他業態への進出を進めてきました。この違いが、今後、EC市場における両社の格差を拡大させるのではないかと思われます。

ちなみに、楽天市場は、安土桃山時代の楽市・楽座のような自由で賑わいのある市場をネット上に作りたいという思いから命名されたようです。信長など戦国大名が活用した楽市・楽座は規制緩和策であり、経済振興と人口増加に効果がありました。ただ、楽市・楽座には多くの小売業者が集まり過ぎ、過当競争に陥っていきます。結果、問屋が力を増し、権力と結んだ御用業者も現れます。自由競争が寡占・独占を生んでいくわけです。魅力を失った楽市・楽座は消えていきます。自由市場は本質的に統制を嫌いますが、統制を失うと意図せぬ方向へ暴走するリスクもあります。放任と統制の匙加減が求められる楽天ですが、ネット市場の統制は、ネットの利便性を高める方向、つまり新技術の提案でしか実現できないものと考えます。楽天は、もう少しここに注力した方がいいように思います。(写真出典:agora.web.jp)

マクア渓谷