2025年1月17日金曜日

「ビーキーパー」

監督:デヴィッド・エアー    2024年アメリカ

☆☆☆ー

典型的なポップ・コーン映画です。安心してポップ・コーンを頬張っていられる映画とも言えます。もはや映画を観ながらポップ・コーンを食べるというよりも、ポップ・コーンを食べるために映画を観ているような感じすらします。CIAの独立性の高い秘密組織というハリウッド伝統の設定は、リアリティを完全に無視して、あらゆる事を可能にします。制作者にとっては、夢のような設定だと思います。ただ、あまりにもありふれているので様々な味付けが必要とされます。今回は養蜂家というアイデアですが、特に蜂とアクションのからみはなく、プロットの仕掛けとして女王蜂が使われています。ただ、伏線の張り方がややくどすぎて、見え見えになってしまいました。

アクションには目新しさも、度肝を抜かれるほどの派手さもありませんが、ジェイソン・ステイサムがクールに戦うだけで、それなりに楽しめます。この人の最大の魅力は、すべて分かっています、なにせプロですから、といった風情のしたり顔だと思います。そういう意味では得がたいアクション・スターなのでしょう。デビュー作は、世界中で大ヒットを記録したガイ・リッチー監督の「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998)です。よくできた脚本とスピーディでおしゃれな演出は、とても新鮮でした。映画のヒットとともにステイサムも一躍有名になりました。ちなみに、長いタイトルは銃のパーツ全てを指し、一切合切という意味の慣用句になります。ただ、複数形になっているので、2丁の拳銃を意味しています。

ステイサムは、続けてガイ・リッチー映画に出演した後、トランスポーター・シリーズやエクスペンダブルス・シリーズ、途中からですがワイルド・スピード・シリーズなどでドル箱スターとなりました。その間、欲張って芸風を広げることもなく、アクション一本槍で来ました。実に潔いとも、よくわきまえているとも言えます。ステイサムは、スタントマンを使わないことでも知られています。アクション映画は、映画の黎明期から存在し、同時にアクション・スターも長い系譜を持っています。体育会系出身のアクション・スターが多かったのですが、1990年代に入り、ブルース・ウィリスがその流れを変えます。非体育会系俳優のアクション映画進出の背景には、CGの普及があったものと思われます。

スタントマンを使わないステイサムは体育会系の正統派とも言えます。ステイサムは、高飛び込みの英国代表選手として鳴らした人のようです。その後、モデルとして活躍しながら、父親の闇商売を手伝い、裏社会も経験しています。その経験が映画にも活きているのでしょう。監督のデヴィッド・エアーは、ワイルド・スピードの脚本家として名を上げ、監督業に進出した人です。LAPDの警官たちを描いた「エンド・オブ・ウォッチ」(2012)は印象に残る映画でした。ブラッド・ピットを主演に迎えた「フューリー」(2014)、マーゴット・ロビーを大スターにした「スーサイド・スクワッド」(2016)等のヒット作でも知られます。それらに比べると本作は、明らかに劣りますが、実に手慣れたアクション映画の演出を見せています。

この手の映画では、観客が細部に疑問を感じる前に次のアクション・シーンに入り、観客がプロットに矛盾を感じる前に終わるといったスピード感が求められます。その点、デヴィッド・エアーは、さすがにツボを心得ているなと思いました。作品としての評価はそこそこですが、興行的には成功しています。ただ、大ヒットとまではいかないので、続編が作られるかどうかは、微妙なラインだと思います。女王蜂プロットは二度と使えませんが、ビーキーパーというフレームは、まだまだ活かせそうな気がします。(写真出典:eiga.com)

命に別状なし