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ペロー |
性別に関するルッキズムは、法律以前に、差別の源となる生物学的、社会学的な深い問題が横たわり、一筋縄ではいかない面があります。例えば、有性生殖は生物が獲得した種の保全に関わる基本戦略ですが、機能的観点から外見が大きな意味を持ちます。このことは否定できないとしても、外見と本質の乖離という問題に加え、生殖上の弱者の存在という問題が生まれます。マジョリティとマイノリティの存在は常に差別の温床です。弱者も含めて社会が構成される以上、人間はこの問題に苦慮してきたとも言えます。17世紀に出版されたシャルル・ペローの童話集に収められている「巻き毛のリケ」も、この問題をテーマとした異色作だと思います。ペロー童話集は、民間伝承を脚色したものですが、リケだけは異なった出自を持ちます。
童話集が、シンデレラや眠れる森の美女といった美しい女性の話ばかりではないかと批判されたペローは、劇作家コルネイユの姪という女流作家の作品を元ネタにリケを書いています。ある国に世にも醜い王子が誕生します。仙女が「この子は、とても賢いから皆に好かれる。この子に、愛した人を自分と同じくらい賢い人にできる力を与える」と言います。王子は、人気者になり、巻き毛のリケと呼ばれます。隣国に、二人の王女が生まれます。姉は世にも美しいが愚鈍でした。仙女は姉に愛した人を自分と同じくらい美しくする力を与えます。一方、妹は醜く生まれますが、賢く育ち、人気者になります。愚鈍がゆえに孤独であることを悲しんだ姉は、ある日、森でリケに出会います。
美しい姉に惹かれたリケは、1年後に私と結婚するなら、賢くしてあげますと言い、仙女が授けた力で姉を賢くします。賢くなった姉は人気者となり、多くの求婚者が現れます。1年後、森でリケと会った姉は、賢くなったがゆえにリケとの結婚を躊躇します。姉は、あなたが私と結婚したかったら、私を賢くすべきではなかったわと言います。リケが聞けば、姉はリケの容姿以外は全て好きだと答えます。だとすれば、仙女があなたに与えた力で私を美しくしなさい、とリケは言います。こうして世にも美しく賢い二人は結ばれます。しかし、ある人によれば、魔法ではなく愛情の力によって、姉の目にリケは魅力的な王子として写っただけだった、として物語は終わります。
ペロー童話集お決まりの教訓には、外見など愛情が見いだす魅力にはかなわない、と記されています。「美女と野獣」にも通じる愛情と外見に関わる話ですが、美男美女が結ばれるハッピーエンドになっていない点が味わい深いと思います。賢さと美しさという対比も面白いと思います。醜いリケと妹が人気者で、美しいが愚鈍な姉が孤独という設定は、実に独創的で示唆に富んでいます。愛情が外見に勝る魅力を見いだすこと、賢さが人を惹きつけることが語られますが、興味深いことに美しさも否定されていません。ペロー童話集は、世界初の児童文学とも言われますが、もともとはサロンで披露されたものが「韻文による物語」として出版され、後に「寓意のある昔話、またはコント集~がちょうおばさんの話」として子供も楽しめるよう散文化されています。リケは、子供向けにしては深い話だと思います。(写真出典:hugkum.sho.jp)