2024年12月19日木曜日

高菜めし

阿蘇でのドライブ旅行の際、昼食として高菜めしを初めて食べました。元祖高菜めしという看板を掲げた「あそ路」という有名店でした。高菜めしに、だご汁やホルモンの味噌煮込みまで付いた定食を食べました。量が多すぎると思ったのですが、高菜めしが美味しくて止まらなくなりました。高菜も高菜漬けも阿蘇の名物であり、今回も辛子高菜をお土産に買うことを楽しみにしていました。高菜好きではありますが、高菜めしは初めてでした。高菜の古漬けを炒めて、温かいご飯に混ぜただけのものですが、高菜のうま味や酸味がいい具合にご飯に染みて食が進みました。福岡の友人によれば、九州の家庭では高菜めし、あるいは高菜チャーハンを食べない週はないとのこと。まさにソウル・フードというわけです。

高菜は中央アジア原産のアブラナ科の植物です。日本には中国から入ってきましたが、既に平安時代の文献にも登場しているようです。本格的な栽培が始まったのは明治以降のことで、主に福岡、山形、和歌山で栽培されていたようです。今回、初めて知ったのですが、山形の青菜(せいさい)漬けも、和歌山のめはり寿司に使う葉も高菜の塩漬けなのだそうです。いずれも明治になってから栽培が始まり、今や全国に知られる名産になっているわけですから、高菜の美味しさは大したものだと言えます。日本三大漬菜と呼ばれるのは、高菜、広島菜、そして野沢菜です。広島菜も野沢菜も高菜かと思いきや、広島菜は京菜を品種改良したもの、野沢菜はカブの変種のようです。

実は、京菜もカブも、高菜と同じアブラナ目アブラナ科アブラナ属です。アブラナ属には、大根、キャベツ、ブロッコリー、ミズナ、コマツナ、ハクサイ、チンゲンサイ等、実に幅広い野菜が含まれるとのこと。食卓の野菜のかなりの部分を占める大派閥です。ここまで勢力を拡大したのは、自家受粉しないために虫による交雑が起きることに加え、アブラナ目がカラシ油配糖体を持っているためだと思われます。分泌されるカラシ油が、害虫や疫病に強い体質を生み、比較的育てやすい野菜になっているわけです。同時に、それは人間にも苦味を感じさせることになります。基本的には毒なのでしょうが、適量であれば風味として好まれることになります。また、アブラナ科に含まれるスルフォラファンの抗がん、血圧降下効果が喧伝されたこともありました。

高菜やその仲間たちが、多く漬物として活用されていることも面白いと思います。あくまでも素人考えですが、カラシ油配糖体が、発酵によってうま味やほどよい酸味に変化しやすいからなのではないでしょうか。高菜の漬物には、古漬けと新漬けがあります。新漬けは、緑色を保っており、めはり寿司や青菜漬け、あるいは香の物として利用されます。一方、古漬けは、発酵が進み、べっ甲色になります。香の物やとんこつラーメンのトッピングにも使われますが、高菜めしや高菜チャーハンでは必須となります。最近発見したことですが、永谷園の松茸のお吸い物に辛子高菜を入れると、酸辣を特徴とする湖南料理の雰囲気が出ます。中華だしのスープに辛子高菜、辛味、米粉麺を入れて食べれば、簡単に湖南ミーフェンもどきが味わえます。

熊本県出身の友人に、阿蘇で”元祖たかなめし”を食べたと話したところ、たかなめしを看板に掲げている店は、だいたい元祖と書いてあるものですよ、と一蹴されました。しかし、調べて見ると、「あそ路」は本当にたかなめし発祥の店でした。2代目の祖母である井芹サキ氏が、12人の子どもたちに満腹感を与えるために作っていた高菜のまぜごはんが発祥のようです。豊肥本線の視察に訪れた鉄道大臣に出したところ評判がよく、昭和40年代に阿蘇の新しい名物として売り出したのだそうです。店は、今も豊肥本線の市ノ川駅のすぐ前にあります。我々は店の閉店時間である15時間際に飛び込んだのですが、広い店内では、まだ多くの人が高菜めしを頬張っていました。恐らく昼時には行列ができているのでしょう。(写真出典:asoji.com)

マクア渓谷