2024年11月2日土曜日

KJ法

かつて、若手や中堅職員は、よく社外研修へ参加させてもらいました。ゼネラリスト育成に関わるテーマは社内研修で対応し、特定テーマについては各部判断で社外研修が活用されていました。資格取得をするための長期のものから、講演、講習といった短期のものまで様々ありました。定期的・計画的に従業員を送り込む定番研修もあれば、従業員個々が、是非行きたいと申請する場合もありました。今も行われているのでしょうが、昔は予算もそこそこ与えられており、海外派遣も含めて、結構、賑やかなものでした。私も、様々、参加させてもらいましたが、いくつか印象に残る社外研修もありました。

その一つが”KJ法”研修です。1週間ばかり、河口湖畔の施設に泊まり込んで行う研修でした。お気軽な研修に聞こえるかもしれませんが、内容はハードなもので、毎晩、夜中まで議論させられたものです。KJ法は、1967年、文化人類学者の川喜田二郎氏が、その著作「発想法」で紹介した情報整理法です。同氏のイニシャルからKJ法と呼ばれます。単なる情報整理に留まらず、発想法、問題解決手法として有効であるとされ、瞬く間に学界やビジネス界で活用されることになりました。大雑把にいえば、グループの各個人が、アイデアや情報をラベルに書き込み、全員でラベルのグルーピングを行い、相互の関係性を議論して、問題の解決策や新たなアイデアを見つけるという手法です。いわば可視化されたブレイン・ストーミングのようなものです。

手間はかかるものの、手順自体はシンプルなものでした。1週間もの研修が必要な代物には見えないと思いますが、実は、ラベルの書き方、ラベルの読み取り方、表面にとらわれないグルーピングなど、細部には留意すべき点も多く、泊まり込み研修が必要とされたわけです。もはや手法というよりも技に近いものがありました。最も重視されたのはラベルの読み方です。現象や意見の背後にある本質を見極めることが重要なポイントだったわけです。ビジネスの世界では、昔から「Whyを3度(5度とも)繰り返せ」、あるいは「問題は細分化して考えろ」といった言葉があります。KJ法から生まれた言葉なのかもしれません。いずれにしても、現場における問題解決を、手法として、可視化、定型化したKJ法の功績は、大きなものだったと思います。

KJ法は、小集団活動における主要メソッドでもありました。ただ、技を必要とする点ではハードルが高かく、また、効率化やスピードが求められる時代にはそぐわない面もありました。結果、小集団活動と同様、手法としては廃れていったように思います。さりながら、とことん事の本質に迫るというKJ法の基本姿勢は、時代を超えたものだったと思います。その後、KJ法を効率化、簡素化した手法が多く発表されたことがその証左とも言えます。河口湖の1週間は、手法よりも基本姿勢を身につけることには役立ったように思います。研修で、一番面食らったのは、毎朝、”KJ法の歌”を歌わされたことです。バカじゃないの、と思いましたが、今、思えば基本姿勢の習得こそが肝だったからなのでしょう。もちろん、歌は、すっかり忘れました。

メーカーの監査役をした時のことですが、たまに製造工程においてイレギュラーな事案が発生し、その都度、原因分析と対応策が取締役会に報告されていました。技術的な対応策が限られるケースが多く、原因分析はおざなりになる傾向がありました。特にヒューマン・エラーに関しては、単純ミスです、ダブル・チェックをトリプル・チェックにします、といった報告も多くありました。これでは原因分析が不十分であり、真の原因が不明だと怒ったことがあります。単純ミスも、Whyを3度、5度と繰り返して、深掘りしていけば、重大な構造的欠陥や本質的問題が見えてくることもあり得ます。河口湖の研修から40年も経っていましたが、”KJ法の歌”が体に染みこんでいたのかもしれません。(写真出典:shikoku-np.co.jp)

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