新米は、それ自体の美味しさを味わうために、多少の塩分があれば良いということなのでしょう。まったく同感です。味噌漬けに限らず、南蛮味噌、紫蘇巻きといった味噌を使ったご飯の友は、すべて新米に合うと思います。焼き海苔に醤油を付けて、ご飯を巻いて食べるのも捨てがたい魅力があります。ただ、新米に最も合うおかずは筋子の醤油漬けや粕漬けではないかと思っています。筋子は塩付けが基本だと思いますが、新米には、なぜか醤油漬けが合います。要は、少量の塩分と発酵の旨味さえあれば、新米の甘さや旨味を引き立たせることが出来るのだと思います。理屈は分かりませんが、感覚的には、新米と発酵食品の相性は抜群だと思います。もっとも、新米に限らず、米と発酵食品は合うということかもしれません。
今年は、新潟県弥彦村産のコシヒカリ”伊彌彦米 零”の新米を食べています。零とは、農薬も化学肥料もまったく使っていないという意味です。そもそも伊彌彦米は、農薬・化学肥料を50%以上減らして生産する米として知られます。無農薬栽培自体には、さほど興味はないのですが、伊彌彦米はとても美味しいと思います。数年前に、新潟の従姉妹に勧められ、すっかりハマりました。零も、その従姉妹が送ってくれたものです。新潟のコシヒカリと言えば、魚沼、岩室、佐渡が有名ですが、流通量が少ないだけで他にも美味しい米が多くあります。新潟では単身赴任だったので自炊していましたが、米を買ったことがありません。というのも、会社の同僚たちの家では、皆、米を作っており、うちの米は美味しいから食べてみろ、と持ってきてくれるのです。
それが、また、皆、美味しいわけです。ありがたい話ではありすが、他方、新潟に赴任して困ることは、美味しい米の味を知ってしまうことだとも言えます。新潟では、どんなにいい加減な食堂でも、あるいはコンビニのおにぎりまで新潟産コシヒカリを使っていると聞きます。不味い米など客が許さないわけです。新潟から東京へ転勤になった直後、社員食堂で食べた米の不味さには驚きました。いわゆる刑務所の”臭い飯”とは、こんな味なんだろうとさえ思ったものです。他にも味を覚えて困ったものはありますが、黒崎茶豆もその一つです。あの味を知ってから、居酒屋で枝豆を注文することはなくなりました。新潟県民にそんな意識はないと思いますが、苦労もなく美味しい米と茶豆を食べられるだけ、他県民よりも幸せな人生を送っているように思います。
ところで、なぜ新米は美味しいのかという素朴な疑問も浮かびます。肉や魚では熟成ということもありますが、野菜や果物は、なにせ採れたてが一番美味いわけです。米も同じだということなのでしょうが、米に”朝どれ”という発想はありません。稲刈りをすると、乾燥、脱穀、精米と、それなりに時間がかかります。とは言え、新米独特のつや、風味、香りは、やはり含まれる水分量の多さに由来するのだそうです。だとすると、多湿な環境はNGだとしても、米の貯蔵には適度な湿度があった方が良いように思えてきます。米は密封して冷暗所で保存するのが良く、冷蔵庫の野菜室が推奨されています。冷蔵庫は乾燥していますが、野菜室は、結果的に多少の湿度があり、適しているのかもしれません。しかし、新米に関して言えば、一番いいのは、急いで食べきることです。(写真出典:furusato-tax.jp)