やはり門仲の通っていた店で飲んでいた時に、テレビ東京のスタッフが現れ、”アドマチック天国”の取材交渉を始めました。すると親父は、にべもなく断り、スタッフを追い返しました。TVスタッフが退散した後、アド街なら受けても良かったんじゃない、と親父に言うと、とんでもない、TVはこりごりだと言うのです。聞けば、かつてTV取材を受けたところ、放送日翌日からフリの客が押し寄せ、常連たちが店に入れない状態が続いたというのです。TVの影響はすごいとも言えますが、そんなブームは一時のものです。その間に、常連に迷惑をかけ、いい客を失う可能性が高いわけですから、納得の理由です。店によっては、制作会社に金を払ってまで取材してもらうこともあるようですが、如何なものかと思います。
NYの場合ですが、ミシュラン・ガイドで星を獲得したレストランの40%が、その後、閉店しているという記事を読みました。念願叶ってミシュランの星を獲得すると、高いレベルを求める新たな客が押し寄せます。店は、それに応えて星を維持しようとするため、食材のコスト、シェフの人件費が高くなります。場合によっては、設備やインテリア費用、賃料などもアップするかもしれません。結果、店の経営は破綻するというわけです。高い評価が禍をもたらす傾向は、料理店に限らず、作家、画家など様々な分野にも存在するようです。例えば、世間的に評価の高いプロ経営者を会社に迎えると、高額な給与を取るにも関わらず自身の執筆、講演、取材に多くの時間を割き、結果、経営に悪影響を及ぼすという話もあります。
もちろん、星や賞を獲得すれば、いいこともありますが、マイナス面にも注目すべきだというわけです。ミシュラン・ガイドの場合、覆面調査の結果、星に該当するとミシュラン側からガイドへの掲載が打診されるようです。ここで断る選択肢もあるわけです。ミシュランは断ることもできますが、例えば、SNSでバズった場合などは、どうしようもありません。過日も、たまに行く神保町の町中華店に大行列ができており、入れませんでした。町中華がブームだと言うので、その店もSNSでバズったのでしょう。近年は、意外な店にインバウンド客が行列している光景を見かけます。ガイド・ブックの時代なら、掲載を断ることもできたのでしょうが、SNSでは打つ手がありません。SNSの弊害の一つだと思います。
名古屋で一番だという老舗のふぐ屋に連れて行ってもらったことがあります。店の玄関に大きな看板があり「会員制」と書いてありました。女将さんに、会員制のふぐ屋とは珍しい、と言ったところ、「私はね、知らない客が大嫌いなのよ」と返されました。名古屋には、結構、看板を出していない店もあります。排他的な街として知られる名古屋らしい話です。空いているのに、フリの客が来ると、親父が「満席だよ」と断る店もありました。京都でもそういう店を知っています。予約オンリーの店ですが、知らない客から予約の電話が入ると「満席です」と言って切るわけです。それで店が成り立つなら結構なことだと思います。現代社会では、ネットも含めて、誰もがあらゆる情報にアクセスできます。人類の歴史においては大きな革命だと思います。一方で、弊害もあるわけです。その弊害に対しては、今のところ、我々は自ら防衛するしかないようです。(写真出典:guide.michelin.com)