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スモカ |
ところが探してみると、粉タイプもしぶとく生き残っていました。代表的なものは、スモカ歯磨社の”MASHIRO”だと思われます。喫煙者用の歯磨き粉”スモカ”は、1925年、壽屋、現在のサントリーが発売しています。1932年、経営難に陥った壽屋が、現在のスモカ社に売却しています。スモカは、2019年に販売終了していますが、一昨年、数量限定で復刻しているようです。現在も、ネット上で入手できます。MASHIROはスモカの後継商品なのでしょう。ちなみに、ライオン社が、1962年に発売し、2016年に販売を終了したた”タバコライオン”も喫煙者用歯磨き粉でした。これも在庫があるのか、ネットでは入手できます。いずれにしても、粉タイプは、ホワイトニング用の研磨剤として健在なわけです。その研磨効果ゆえに、工芸用としても使われているようです。
大昔から、歯磨きには房楊枝と呼ばれる小枝や根をほぐした物が使われていたようです。爪楊枝の原型でもあるようです。今も、インドやアフリカで房楊枝は現役だと聞きます。一方、文献上、世界最古の歯磨き粉とされるのは、紀元前1500年頃の古代エジプトの医術書に登場します。ビンロウ、火打石、蜂蜜等を混ぜたものだったようです。恐らく、それは王族や金持用であり、エジプトに限らず世界中の庶民が使っていたのは塩程度だったのではないかと想像します。その後、各国で様々な歯磨き粉が作られていきます。各国、各時代の練歯磨きや歯磨き粉には、塩、酢、石灰系、アンモニア系など多様な材料が使われ、口当たりを良くするために蜂蜜も使われていたようです。
原材料を見ると、口内をすっきりさせたいということに加え、古くから虫歯対策や美白効果も狙っていたことが分かります。ちなみに、虫歯の原因が細菌であることが解明されたのは20世紀になってからだと聞きます。それまでは、口中に住む虫が原因だと思われており、よって虫歯と呼ばれていたわけです。原因が細菌であることが判明した後も虫歯と呼び続けているところは、歯磨き粉によく似ています。日本で最初の歯磨き粉とされるのは、江戸初期、丁字屋喜左衛門が売り出した「丁字屋歯磨」、「大明香薬」だとされます。製法は、朝鮮半島から伝わったものだったようです。粒子の細かい陶土に丁字や龍脳といった漢方薬を混ぜていました。美白効果と口臭対策が謳われ、類似品が広まっていきますが、基本的には研磨剤であり、歯には良くなかったようです。
江戸では、房楊枝と歯磨き粉や塩で歯を磨く習慣が一般化したようです。欧米では、19世紀、歯磨き粉を使った歯磨きの習慣が一般化していますが、自家製の粉タイプが多かったようです。そこへ化学的に合成され、品質の安定した練りタイプが登場します。日本では、1888年、資生堂が西洋の製法に基づく初の練りタイプ「福原衛生歯磨石鹼」を発売しています。1896年、米国でコルゲート社が初めてチューブ入りの練りタイプを発売すると、1911年には、ライオン社が日本初となるチューブ入りの歯磨き粉を発売しています。当初、チューブは輸入に頼っていたようです。日本における練りタイプの歴史も、結構、古かったわけですが、粉タイプが主流であり続けた理由は、コストなのではないかと思います。肌感覚で言えば、現在のチューブ入りが主流になったのは1960年代ではないかと思われます。ペースト主体になっても歯磨き粉と呼ぶのは、粉タイプの歴史が長かったからということに尽きるのでしょう。(写真出典:item.rakuten.co.jp)