2024年7月7日日曜日

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ルーカスフィルムが、ウォルト・ディズニー・カンパニーに買収されたのは2012年のことでした。資金力と技術力の高さを背景に、ディズニーは「スター・ウォーズ・シリーズ」をリブートします。前作から10年振りの公開となった「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015)を皮切りに、スター・ウォーズ全9話を完結させるとともに、実写とアニメのスピンオフ作品を次々と公開しています。「ローグ・ワン」(2016)と「ハン・ソロ」(2018)は劇場公開されましたが、他はTVシリーズとして制作され、2019年からはDisney+(ディズニー・プラス)で配信されています。今回、ケーブルTVの契約見直しに伴い、3ヶ月間無料という特典が提供されたので、ついにDisney+に加入しました。 

無料期間中に見たいものを全部見て解約するつもりでしたが、どうも止められそうにありません。理由は「Shōgun」とスター・ウォーズの「Andor」の2nd、3rdシーズンを見逃せないと思ったからです。「Andor(邦題:キャシアン・アンドー)」は、2022年に配信開始されました。「ローグ・ワン」の主人公であったキャプテン・アンドーが反乱軍に加わるまでが描かれます。ちなみに、「ローグ・ワン」では、キャプテン・アンドーとジン・アーソが、銀河帝国の究極兵器デス・スターの設計図を、命をかけて盗むまでが描かれています。その設計図に基づき、反乱軍がデス・スターを破壊するのが、スター・ウォーズの記念すべき第1作「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」(1977)のストーリーでした。

さて、その「Andor」ですが、スピン・オフのレベルを超えた秀作だと思いました。アンドーは、遺棄された辺境惑星で原始的な暮らしを営む一族に産まれます。墜落船の事故現場での騒動から救出された少年アンドーは、惑星フェリックスで養母マーヴァに育てられます。腕っこきの泥棒に育ったアンドーですが、傭兵として抵抗勢力の作戦に参加せざるを得ない状況になります。シニカルな一匹狼アンドーは、帝国打倒に燃える抵抗運動家たちに批判的でした。本作では、そのアンドーが、自らの意志で運動に加わるまでが丁寧に描かれていきます。スター・ウォーズ本編9作は、父と子、ジェダイとダークサイドとの葛藤の物語です。そして、背景に置かれたのは、乗っ取られた共和国と乗っ取った銀河帝国の戦いという構図です。

本シリーズは、初期段階における両サイドの現場の姿を、ある意味、等しく描いているとも言えます。徐々に独裁化を進める帝国のもと、共和国派は分断され、バラバラに地下活動を展開しています。第二次大戦時のナチスに対するレジスタンス活動を思わせるものがあり、なかなかスリリングです。また、本編9話のなかでは、ダースベイダーを例外として、帝国サイドはシンプルに漫画的な悪者として描かれ、個々人やその人間模様が物語られることは決してありません。あえて、そこにも焦点を当てていることが、本シリーズの大きな特徴だとも言えます。そうした重層的な構造が、うねりのある展開を生み、面白い作品になったものと思います。ただ、伏線回収はまだまだであり、次のシーズンが待たれるところです。

スター・ウォーズは、比較神話学に基づきしっかり構成されたサーガであることに加え、ウェザリングされた宇宙船・兵器・機器類、多種多様な異星人、壮大な景観等々、創造的な世界観でも我々を魅了してきました。その世界観を保ったまま、サーガを拡張展開していくことには、無限の可能性がある思います。これほどスピンオフ制作に適したコンテンツもないのではないかとさえ思います。それだけに、個々のスピンオフは、本編9作のサーガにリンクしながらも、それに頼りすぎることのない独自の構成と展開を持つ必要があります。そういう意味において、「Andor」は、実によくできたシリーズだと思います。(写真出典:imdb.com)

「ゲッベルス」