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丸万のもも焼き |
実は、高温の木炭に鶏の脂が落ちて炎があがり、舞い上げられた炭化物が鶏に付着して、黒くなっていたのです。炭火焼きのエクストリーム・ヴァージョンです。強い火力が鶏の旨味を閉じ込め、味を良くしていたわけです。宮崎には3~4泊したように思うのですが、毎晩、二次会でもも焼きを食べました。一番、美味しかったのは、もも焼きの元祖と言われる「丸万焼鳥本店」だったと記憶します。かなりの高温で焼き上げ、中はレアに近い状態でした。香ばしさもさることながら、宮崎の地鶏、みやざき地頭鶏(じとっこ)の旨味が最も強く感じられました。地頭鶏は、霧島山麓で古くから飼育されていたようです。美味な肉だったので、藩の地頭に献上していたことから地頭鶏と呼ばれるようになったとされます。
日本三大地鶏とされるのは、秋田の比内地鶏、愛知の名古屋コーチン、鹿児島の薩摩地鶏です。よく刺身で食べられる薩摩地鶏は、甘味の強い肉質が特徴です。初めて食べた時には、甘味の強い鹿児島醤油のせいかと思いました。実は、肉自体の甘味が強いのです。サツマイモを餌にしているのかと思ったほどです。鹿児島の人に、やはり霧島の地頭鶏が原型ですか、と聞いたら、あんなものとはまったく異なる、と怒られました。薩摩地鶏は、江戸期に開発された闘鶏用の軍鶏・薩摩鶏を原型とします。闘鶏好みは、会津藩と並び江戸時代最強と言われた薩摩藩らしい話です。地頭鶏のふるさとである宮崎県南西部も薩摩藩でした。薩摩藩で鶏の飼育が盛んだった理由は、年貢の対象外とされていたためだと聞きます。
骨付きの鶏ももに包丁を入れて焼く宮崎のもも焼きは、丸万焼鳥本店の創業者の発案だったようです。最近のもも焼きは、一口大にカットして焼くことが多いのですが、丸万焼鳥本店では骨付きのまま焼いています。ひね鶏、いわゆる採卵鶏を使うのも、創業者のアイデアだったようです。ひね鶏の肉は固いのですが、旨味が強いのが特徴です。炭火に鶏脂を落として黒く焼きあげるスタイルも丸万焼鳥本店の発明なのかと思いましたが、どうもはっきりしません。古くからあった焼き方という説もあります。ひね鶏は、脂身が少ないので、風味を増すために、鶏脂を塗って焼いたのではないでしょうか。鶏脂が炭に落ちて炎をあげ、結果的に黒くなったのではないかと考えます。ちなみに、焼鳥も、炭と鶏脂をうまく使って焼き上げます。
焼鳥は、焦げても、黒くなることはありません。そこが、串指し3年、焼き一生と言われる職人技なのでしょう。もも焼きも、焼鳥も、食材そのものを炭化させないことは当然です。ただ、その焼き方においては、炎の当て方と焼時間が大いに異なります。焼鳥は遠赤外線でじっくり中まで火を通し、もも焼きは、短時間、強火で表面を焼き上げることで、肉の旨味を閉じ込め、炭の香ばしさを一気にまとわせます。両極端のアプローチと言っていいのでしょう。食材に、直接火をあてる調理と言えば、フランベがあります。これは、ブランデー等の香りを食材に移す手法です。もも焼きに近いものとしては、カツオのたたきを作る際の藁焼きがあります。少なくとも丸万焼鳥本店のもも焼きに関しては、地鶏のたたきと言ってもいいのかもしれません。(写真出典:miyazaki-city.tourism.or.jp)
丸万焼鳥本店は裁き方の元祖 異様な焼き方 焼鳥と同じ しかし焼鳥は黒くしない