2024年7月13日土曜日

車輪

世界三大発明とは、火薬・羅針盤・活版印刷とされます。これに紙を加えて四大発明と言うこともあるようです。すべて中国で発明されたものばかりですが、15~16世紀に欧州に伝えられ、社会を大きく変えたために三大発明と呼ばれるようになったようです。ただ、人類の歴史を変えた発明と言えば、古くは石器、火の利用に始まり、農耕・牧畜、文字、土器、青銅器、鉄器等々、数限りなく存在します。発明は、常に文明のエンジンでした。文明の始まりは、5,500年前に潅漑農業を始め、3,500年前には都市文明を築いたシュメール文明だとされます。シュメールは、文字と数字を生み出したことでも知られます。同様にシュメール文明が発明した文明の利器に車輪があります。3,500年前のこととされます。

車輪の発明は、人類に計り知れないほどの恩恵をもたらしたものと考えます。効率的な物の運搬や人の移動を可能にし、歯車は機械に効率良く動力を伝えることで、文明を根底で支えています。文字と同様、人類の文明化にとっては、最も重要な発明の一つだと思います。車輪が発明される前、重い物や多くの物を運ぶためにソリが発明されていました。地べたの上でソリを引っ張るのは、なかなかの重労働です。そこで滑りをよくするための方策が考えられますが、その一つがコロでした。ソリの下に丸太ん棒を並べ、滑りを良くするわけです。ソリにコロを付けるという発想の転換が車輪を生むことになります。車輪は大発明ですが、そもそもコロに気付いたことが大きかったと言えます。

車輪は、はじめ一枚の木板で作られますが、強度に問題があったため、板を組み合わせる方法がとられます。さらに強度を増すために横木が付けられます。この横木がスポークへと進化し、ハブ・スポーク・リムで構成される軽量で強度の高い現在の車輪が出来上がります。また、強度を求め、材質は木材から鉄へと変わります。そして、19世紀、ゴムタイヤが登場します。初めはソリッド・ゴムだったようですが、やがて現在の主流であるチューブ入りのゴムタイヤが登場するわけです。自転車用は英国のダンロップ、自動車用は仏国のミシュランによって開発されました。耐久性に問題はあるものの、抜群の衝撃吸収性、安定走行性の高さに加え、グリップ力の強さも大きな特徴です。

摩擦を考えれば、車輪の究極的な目標は、車輪を無くすことであり、飛翔体ということになります。しかし、ロケットを別とすれば、飛行機やヘリコプター、あるいはドローン等は、空気の存在を前提としている以上、空気抵抗という摩擦との戦いは避けられません。リニアモーター・カーも浮いて走行するため、接地面における摩擦を克服しましたが、空気抵抗の問題は残ります。摩擦との戦いを克服する究極のアイデアの一つが真空チューブ列車です。真空状態にしたチューブ内で、宙に浮いた列車を走らせます。ほぼ摩擦抵抗を受けない列車は驚異的なスピードを実現できます。既に19世紀から計画、実験が、各国で継続されていますが、技術的な面、経済効果的な面での課題も多く、いまだ実用化には至っていません。

車輪の歴史は、摩擦との戦いの歴史です。思えば、車輪に限らず、文明は摩擦の克服と活用の歴史だったと言うこともできそうです。摩擦の原因や克服法に関する研究は、アリストテレスの時代から行われていたようです。現在、摩擦は、物質の表面上の微細な凸凹がかみ合うことで発生することが分かっています。また、静止摩擦よりも動摩擦が、動摩擦のなかでも滑り摩擦よりも転がり摩擦の方が、抵抗が少ないことも分かっています。科学以前に実用化されていた車輪は、偉大な発明だったわけです。車輪と同様に人類にとって偉大な発明である火の起こし方も、摩擦を活用することで成り立っています。木の板と木の棒を使う方法も、火打ち石を使う方法も、摩擦熱を利用しています。人類と摩擦の関係は奥深く、興味深いものがあります。(写真出典:ja.wikipedia,org)

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