2024年6月13日木曜日

ミニマル・ミュージック

テリー・ライリーのライブを聴いてきました。ミニマル・ミュージックの先駆者も御年88歳になります。ステージは、息子でギタリストのギャンとのデュオでした。テリー・ライリーは、2020年、佐渡島のイベント準備のために来日しますが、コロナのパンデミックが発生したため、日本に滞在することを選択します。以降、山梨県に移住し、日本での音楽活動を展開しています。私がテリー・ライリーを知ったのは50年以上前のことです。実験映画の上映会で「corridor」というタイトルの映画を見ました。カメラが様々な廊下を進むだけの映像がコマ送りで延々と映し出されます。その音楽をテリー・ライリーが担当していました。映像と音楽が完全に一体となり、印象に残る実に不思議な体験をしました。

ミニマル・ミュージックは、1960年代のアメリカで生まれています。テリー・ライリーはじめ、ラ=モンテ・ヤング、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスら、現代音楽の作曲家たちが始めた音楽です。最低限の音で構成する音楽ゆえ、ミニマルと呼ばれます。単音を長く伸ばす、あるいは短いフレーズを反復することが特徴と言えます。それが、バッハ的な音楽とは全く異なる不思議な音楽体験を生み出していきます。ミニマル・ミュージックの代表作とされるテリー・ライリーの「In C」では、35人以上が望ましいとされる演奏者によって、53の短いフレーズが、各々の任意によって繰り返されます。バックでは、ピアノなどによりCの音が8分音符で繰り返され、パルスと呼ばれる基調を形作ります。

一定のフレーズとリズムがベースにありますが、即興音楽そのものと言えます。例えば、西アフリカ音楽の特徴の一つは延々と続くリフであり、その伝統はアメリカ、カリブ海、ブラジルの音楽に引き継がれています。西アフリカ系のリフには、明らかに麻薬的効果があり、ダンスと組み合わせることで、人々を恍惚状態へと導きます。その絶大な効果は、しばしば原始宗教でも活用されています。テリー・ライリーの音楽にも同じことが言えるように思います。インド音楽のマスターでもあるテリー・ライリーの音楽にはエスニックな要素も入ってきます。1960年代、カウンター・カルチャーの時代を迎え、マリファナが広まり、サイケリック・ブームが起きるなか、ミニマル・ミュージックは勢いを増していったと言えるのでしょう。

現代におけるミニマル・ミュージックの代表といえば、映画音楽の世界で大活躍するマイケル・ナイマンなのでしょう。映画音楽の世界では、ピーター・グリーナウェイやパトリス・ルコントの映画で名を成しますが、最もよく知られるのはジェーン・カンピオンの「ピアノ・レッスン」です。ミニマル・ミュージックという言葉を生んだのはナイマンだとされますが、ミニマリズムに共感しアンビエント・ミュージックという言葉を生んだのがロキシー・ミュージックで知られるブライアン・イーノです。ちなみに、ロキシーは好きなバンドの一つでした。ブライアン・フェリーの独特な歌い方がクセになります。なお、日本のミニマル・ミュージックの作曲家としては、アニメ音楽で成功した久石譲がいます。

マイケル・ナイマンは、オール・ナイト・コンサートを開きますが、その生みの親もテリー・ライリーです。アンビエント・ミュージックという言葉も示唆的ですが、ミニマル・ミュージックはリラックスした状態で楽しむ音楽だと思います。今回のライブ会場では150人くらいが丸椅子に座らされぎゅうぎゅう詰めになっていました。商売上やむを得ないのでしょうが、ミニマル・ミュージックの本質とかけ離れた会場の環境はやや残念でした。テリー・ライリーはシンセサイザーを使い、約60分間、ノンストップで演奏していました。アンコールでは、ピアニカにループなどのエフェクトをかけて演奏していました。面白い使い方です。理想的には富士山麓あたりで、オールナイト・コンサートをやってもらいたいところですが、ご年齢からすれば、まあ難しいでしょうね。(写真出典:ja.wikipedia.org)

マクア渓谷