2024年5月12日日曜日

焼鳥丼

おが和焼鳥重
丸の内の人たちは、「焼鳥丼」と言えば「伊勢廣」の”やきとり重”、通称”焼鳥お重”を思い浮かべるものと思います。帝劇地下の伊勢廣の定番”やきとり重”は、丸の内を代表するランチだと思います。しかし、串焼にした”焼鳥”をご飯の上に乗せるスタイルは、焼鳥丼としては希だと思います。一般的な焼鳥丼は、甘辛いタレで焼いた鶏肉をご飯に乗せたものだと思います。焼鳥丼の名店とされる人形町の「おが和」や築地の「とゝや」は、このスタイルです。香ばしさがクセになる伊勢廣スタイル、タレと食べごたえが後を引くおが和スタイル、いずれも絶品です。ちなみに、おが和も伊勢廣と同じく丼ではなくお重です。伊勢廣が丼ではなくお重を選択したのは、食べやすさに加え、帝劇に集う上品な女性客を意識してのことなのだろうと思います。

鳥類を焼くという料理は、人間にとって、ほぼ初めての料理だったのではないかと思っています。それだけに我々の古い記憶をくすぐる独特な魅力があるのでしょう。肉を串に刺して焼く料理は世界中にあるようですが、こと焼鳥というスタイルに関しては、東南アジアが中心のようです。日本の焼鳥が形を成したは江戸期だと聞きます。まずは雀焼の屋台から広がっていったようです。お祭りの露店では定番の一つにまでなっていたようです。江戸初期に醤油の大量生産が始まると、焼鳥の味付けも醤油と酒が一般化していったようです。現在の焼鳥は、シンプルな塩、あるいは店独自の継ぎ足しのタレを選べます。私は、焼鳥に独特な香ばしい味わいを楽しめる塩の方が好みです。

伊勢廣で、おたくの焼鳥は何故うまいのか、と聞いたことがあります。「新鮮な鶏を使っているから」との答でした。それだけなら、世の中はうまい焼鳥屋であふれているはずです。”串打ち三年、焼き一生”という言葉があるとおり、焼鳥は焼き方が命だと思います。外は水分を飛ばしてパリッと仕上げ、中は旨味と水分を閉じ込めジューシーに、そして炭火に落ちた鶏の油が絶妙なスモーク効果をもたらします。ミシュランで星をとる焼鳥屋には、丁寧な焼き方で焦げ目をつけない傾向があるように思います。これは如何なものかと思います。焼鳥は焦げ目も味のうちだと思います。店内がもくもくと煙で充満しているということは、脂のスモーク効果が十分に効いているという証拠です。

焼鳥丼の店でも同じことが言えます。ただ、焼鳥丼の塩味は聞いたことがありません。ご飯との相性もあって、継ぎ足しで旨味を増した甘辛い醤油ダレになります。タレも、豚丼のように濃ければ良いというものではありません。そこは、やはり鶏を焼いた際の旨味や香ばしさを邪魔しないタレである必要があります。例えば、人形町おが和のタレは、見た目よりもあっさりしており、焼いた鶏肉の旨味を活かしています。伝統の深川の味が生きているように思います。とゝやは、鶏の部位を選ぶことができ、追加もできます。私は、いつも、もも、ぼんじり、つくねを乗せます。人気のぼんじりは、鶏の尻尾の付け根の肉です。プリッとした脂が美味しい部位です。

国技館での大相撲は、年3回開催されます。私は、毎場所、前半・後半1回づつ観戦しています。国技館の相撲観戦には名物の焼き鳥が欠かせません。国技館の地下で作られる焼き鳥は、街の焼鳥屋の焼鳥とは大違いです。”冷めても美味しい”をコンセプトに独自の製法で作られます。タレをつけては焼き、焼いてはタレにつけるという工程を数回繰り返すと聞きます。焼鳥というよりも、焼鳥の蒸し焼きのようなものです。見た目も含めて焼鳥とは異なる代物だとは思いますが、これはこれで美味しいわけです。私は、お土産にした国技館の焼鳥を、翌朝、親子丼に仕立て食べます。個人的には、焼鳥丼の玉子とじってところだな、と思いながら楽しんでいます。(写真出典:tabelog.com)

マクア渓谷