2024年4月8日月曜日

ホウレンソウ

ビジネスの世界には「ホウ・レン・ソウ」という言葉があります。報告・連絡・相談のことです。新入社員研修等でよく教えられる定番です。職場におけるコミュニケーションを良くし、円滑な組織運営を実現する手段とされます。日本のお家芸であった集団主義の基本的な作法といったところです。よくできた話ではありますが、明らかに”ホウレンソウ”に寄せたダジャレです。それが職場におけるコミュニケーションの全てでも、究極でもありません。ビジネスの現場ではなく、研修等の場に限って使われる言葉だとも思います。ちなみに、多くの会社員は、報・連・相は知っていても、野菜のホウレンソウの漢字、あるいは名前の由来も知らないと思います。ホウレンソウは漢字で「菠薐草」と書きます。馴染の薄い難字です。

7世紀、菠薐国(ペルシャ)から唐に伝えられた野菜ゆえ菠薐草と呼ばれたのだそうです。中央アジアあたりが原産地であり、一説にはイスラム勢力の拡大、あるいは巡礼にともなって世界に広がったとされます。今は、アジア全域でも、中東・西欧でも、ごく一般的な葉物野菜となっています。広範に伝播した理由は、美味しさもありますが、成長が早く、寒さにも強く、春でも秋でも栽培できる育てやすさにあったのでしょう。近年は品種改良も進み、一年中、出荷されています。日本には、16世紀頃、中国から葉がギザギザな東洋種が持ち込まれたようです。しかし、さほど一般的な野菜ではなかったようです。明治期になると葉の丸い西洋種も伝わり、交配が進んだ結果、日本固有のホウレンソウが生まれます。

日本でホウレンソウが普及した背景にはポパイ人気があったという説があります。ポパイは、1929年、NYの新聞漫画に初登場していますが、当初は端役だったようです。ところが、そのキャラクターが大人気となり、1930年代には、多くの短編アニメが製作されます。戦前の日本でも知名度は高かったようです。ポパイのエネルギー源であるホウレンソウの缶詰は、母親が野菜嫌いの子供たちに野菜を食べさせるための格好の説得材料にもなりました。1960年になると、アメリカではTV用アニメの放送が始まっています。日本でも、1959年から短編アニメ版のポパイがTVに登場します。皇太子ご成婚に伴い、TVが急速に普及した年に重なっており、ポパイは大人気となります。

我々の世代にとって、ポパイ、ホウレンソウ、オリーブ、ブルート、ポパイのテーマソングは、体の一部です。ただ、不思議なことにホウレンソウの缶詰は、まったく普及しませんでした。新鮮なホウレンソウが供給されたこともありますが、日本人の好きな調理法に合わなかったからなのでしょう。お浸し、炒め物、胡麻和えが、日本のホウレンソウ料理の定番と言えます。私がよく食べているのは、ごま油で炒め、日本酒を振りかけ、醤油で香りづけしただけの炒め物ものです。洋風にも様々な料理がありますが、なかでもクリーム・スピナッチは私の大好物です。私は、緑色の野菜が大好きなのですが、ことに味の主張が強いホウレンソウは葉物の王様だと思っています。まぁ、ポパイの影響も否定できませんが。

最近は、報・連・相つながりで「オヒタシ」というビジネス用語もあるようです。オコラナイ、ヒテイシナイ、タスケル、シジスル、の縦読みです。報・連・相を受ける上司のあるべき姿勢というわけです。最近のパワハラ告発に怯えるリーダーたちには有効なのかもしれません。否定するわけではありませんが、それが全てでもありません。リーダーに求められる強い指導力とパワハラは別物です。もちろん、人格を否定するような怒り方は問題です。その加減やパワハラの判定は難しいものですが、気の抜けたリーダーも問題です。ビタミンCや鉄分等を多く含むホウレンソウですが、灰汁の成分であるシュウ酸が体内でカルシウムと結合して結石ができやすいと聞きます。要は、美味しくて健康にも良いホウレンソウは、食べ過ぎや調理法に留意しつつも、積極的に摂取しましょうということです。(写真出典:cartoongoodies.com)

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