2023年9月27日水曜日

100kmウォーク

人生のなかで、一番長く歩いたのは、奥入瀬渓流から十和田湖畔のキャンプ場までの約25kmだったと記憶します。中学3年生の頃であり、体力もあり、仲間たちとワイワイ言いながら歩いたので、疲れはしましたが、さほどしんどかった記憶はありません。キャンプ場到着後には、テントを張り、夕食を作り、キャンプ・ファイヤーを囲んで遅くまで盛り上がりました。江戸時代の旅人は、平坦な道であれば、成人男性は日に10里(40km弱)、 女性で8里くらい歩いたものだそうです。25kmなど、老女の距離だったわけです。昔の人は、ナイキのシューズも履かずによく歩いたものだと思います。ただ、わらじは、長距離を歩くのには合理的だったとも聞きます。足底全体に体重が乗るので、疲れにくいということのようです。

「行橋~別府100キロウォーク」なるイベントが行われているのを知ったのは10年ほど前のことでした。毎年春、福岡県の行橋から大分県の別府までの100km強を、一昼夜かけて歩くというイベントです。前半は平坦な道が多いのですが、国東半島にかかる後半は、厳しい峠道を上り下りすることになります。5千人ほどが参加し、うち7割ほどが完歩するようです。制限時間は26時間。早い人は12時間くらいで完歩するようです。各自の判断で短い休憩は、随時、取ります。長く休むと、それ以上歩けなくなるようです。男性が途中棄権する理由の多くは、股ずれだと聞きました。対策を施して参加するのでしょうが、それでも厳しいようです。比較的効果があるのは馬油を塗ることだそうです。そんな馬油の使い方も初めて知りました。

実に過酷なチャレンジですが、興味をそそられました。結果的には、日程上、無理があり、参加することはありませんでした。日頃から歩いているわけでもないので、参加しても早々に途中棄権していたとは思うのですが、それでも何故か気になるチャレンジでした。背景には、マラソンは無理でも、歩くのであれば出来そうだという甘い考え方があるのでしょう。全国には、20弱の100kmウォーク・イベントがあるようです。レースではなく、あくまでもイベントという位置づけになっているようです。これがタイム・レースだとすれば、あまりにも過酷な競技だと言えます。ところが、世の中には過酷さを追い求める人たちも多く、超長距離のマラソンはじめ、ほぼ登山のトレイル・ラン、あるいは砂漠のマラソンもあります。

これは、いわゆるβエンドルフィンの効果ということになるのでしょう。人間の脳は、物理的な痛みに伴うストレスを感じると、それを緩和するためにβエンドルフィンを分泌すると言われます。βエンドルフィンは、幸せホルモンと呼ばれるドーパミンの分泌を高めて、多幸感を生み出します。βエンドルフィンは、モルヒネと同じような効果を与えることから脳内麻薬とも呼ばれるようです。これが、ランナーズ・ハイを生むメカニズムだとされます。多幸感を得るこのサイクルが脳内で学習されると、いわゆる”ハマる”という状態になり、運動に限らず、激辛食やサウナでも同じことが起きるわけです。なお、近年は、βエンドルフィンではなく大麻と同じ成分を持つ内因性カンナビノイドが主要因だとする説が有力になりつつあるようです。

一説によれば、βエンドルフィンは、多少息があがる程度の有酸素運動を30分続ければ分泌されるそうです。ただ、有酸素運動を続ければ、体力がついてきて、30分程度ではストレスを感じなくなるものと思われます。そこでβエンドルフィンを求めるエスカレートのサイクルに入るわけです。激辛も、サウナも同じなのでしょう。サウナと言えば、近年のブームを受けて、いつも行くスーパー銭湯でも熱波師が来たり、機械で自動的に熱波を送るオート・ロウリュウが導入されています。過日、オート・ロウリュウを試したところ、軽い火傷に近い状況に陥りました。 薬も過ぎれば毒となる、といったところでしょうか。左足の血流に若干の問題を抱え、かつ年齢も年齢なので、誠に残念ではありますが、100kmウォークにチャレンジする日は来ないだろうなと思っています。(写真出典:nishinippon.co.jp)

マクア渓谷