2023年6月5日月曜日

鯛めし

鯛を丸ごと米と一緒に炊き込む鯛めしは、各地に見られる料理です。炊き込みご飯の一種というわけです。農水省の「うちの郷土料理」では、愛媛、徳島、広島の郷土料理として登録されています。愛媛県では、炊き込みスタイルの鯛めしは、東予の鯛めしと呼ばれます。対して、南予の鯛めしと呼ばれる料理も存在します。鯛の刺身を、醤油ベースのタレに生卵・海苔・胡麻・ねぎといった薬味を加えたものに和えて、ご飯にかけて食べます。その歴史は、以外と浅く、1970年代に宇和島で生まれたと言われます。ただ、当地には、古くから刺身を使った漁師めしとして”ひゅうが飯”が存在し、その鯛バージョンが南予の鯛めしとも言えます。なお、ひゅうが飯は日向から伝わったとされます。

宇和島には、ひゅうがの他に”さつま”という料理もあります。焼いた魚の身をほぐし、味噌と薬味をいれただし汁にいれ、ご飯にかけて食べます。宮崎名物の冷や汁とほぼ同じです。”さつま”の方が、より”ひゅうが”ではないかとも思えます。南予の対岸の大分にも、同じ”ひゅうが”があります。面白いことに、大分には、他に”りゅうきゅう”という郷土料理も存在します。ひゅうがの方が、すりごまを使い甘めのタレになっている程度の違いしかありません。同じ料理も、所によって名前が異なるのは当然です。大分では、これらに出汁をかけて茶漬けとしても食べます。これを鯛の刺身で食べれば、いわゆる”鯛茶漬け”になるわけです。鯛茶も、全国各地に存在しますが、長崎県が発祥という説もあるようです。

鯛茶と言えば、名古屋の「鯛めし楼」を思い出します。伊勢湾で獲れたばかりの新鮮な天然鯛を分厚く切り、出汁の効いたタレをまぶして、茶漬けにします。シンプルながら、これが、実にうまいわけです。ランチ・メニューですが、なかなかお高いので、滅多には食べられませんでした。福岡へ行った際には「割烹よし田」の鯛茶も素通りできません。また、炊き込み系の東予の鯛めしは美味しいのですが、私はファンという程ではありませんでした。ところが、今治の海辺の魚料理店で食べた鯛めしの美味しさには驚きました。炊きたてということもあるのでしょうが、要は、鯛めしも、鯛茶も、新鮮な鯛を使うか否かで、大いに味が異なるということなのでしょう。欲を言えば、天然ものに越したことはありませんが。

鯛めし、鯛茶の、もう一つ大事なポイントは、鯛の出汁だと思います。炊き込み系鯛めしは、もちろんいい出汁がでます。南予の鯛めしのタレにも、鯛の出汁が使われます。鯛茶は、お茶を掛けるのではなく、鯛からとった出汁をかけます。昔、祝宴土産の折り箱には、鯛の塩焼きが入っていたものです。我が家では、それを昆布と一緒に煮て、鯛のすまし汁にしていました。また、スーパー等で安く売っている鯛のアラで作る潮汁は絶品です。”腐っても鯛”という言葉があるくらいで、やはり鯛は魚の王様なのでしょう。そのうま味は抜群であり、また余すところなく食べられます。刺身、塩焼きも美味しいのですが、身の美味しさ、加えて出汁の美味しさまで味わえる鯛めし、鯛茶は、鯛の楽しみ方の王道かも知れません。

鯛の名産地は多くあるわけですが、マダイの漁獲量では、長崎県、福岡県、愛媛県が常に上位3県となっています。愛媛県は、鯛の養殖でも知られ、全国の漁獲高の半分以上を占めています。鯛は、愛媛県の県の魚にもなっています。実は、もう一つ鯛を県の魚にしている県があります。千葉県です。かなり意外な感じがします。恐らく鴨川に鯛の浦が存在するからなのでしょう。本来、深い海に生息するマダイが、鯛ノ浦では浅い海に群生しています。国の天然記念物にも指定されています。浅い海に群生する理由は、解明されていません。1222年、安房小湊に日蓮が誕生すると、鯛の群れが海面に上がってきて飛び跳ねたと言われます。以来、この地は鯛の浦と呼ばれ、鯛は日蓮の化身として一切の漁が禁止されてきました。(写真出典:kurashiru.com)

マクア渓谷