2023年5月18日木曜日

報道の自由度

ジャニー喜多川
2002年から続く「世界報道自由度ランキング」は、1985年、パリに設立された”国境なき記者団”によって発表されています。世界180カ国を対象に、報道機関と政府との関係を調査し、評価しています。傾向としては、北欧諸国の自由度が高く、先進国は、おおむね40位以内に入っています。日本は、民主党が政権を担っていた2010年に、最高ランクとなる11位を獲得しています。しかし、その後、東日本大震災が起こると、福島原発を巡る閉鎖的な報道が批判され順位を落とします。さらに第二次安倍政権が誕生すると、マスコミに敵対的、あるいは不公平なその姿勢ゆえに、50番以下へと順位を落とし、特定秘密保護法が強行採決されると60番台まで落ち込みます。

日本の低評価は、政府の姿勢に依るところが大きいのですが、排他的な記者クラブの存在も理由の一つとなっています。日本に特有な仕組みである記者クラブは、大手マスコミの官邸や官庁の番記者で構成され、情報へのアクセス、記者会見開催、常駐部屋の提供等において、優先的な扱いを受けています。氏素性の明らかな記者で構成されるセキュリティの高さ、秩序ある報道競争の確保、個別ではなく集団で情報開示を求める強み等がメリットとして強調されます。一方で、クラブ以外のマスコミに排他的であることに加え、癒着を生みやすい仕組みであるとの批判を受けてきました。前近代的な代物に思えますが、取材される側、取材する側、双方にとってメリットがあるため、温存されてきました。

日本の大手マスコミは、いわば脛に傷を持っており、報道自由度ランキングに関するニュースは、当然、浅いものに留まる傾向にあります。日本のマスコミの大きな問題点は他にもあります。新聞社とTV局の一体経営です。先進国の多くは、新聞社とTV局の兼営を認めていません。日本でも表面的には別会社にはなっていますが、資本や人事の面で関係会社化されています。そこに報道のゆがみが生じる危険があります。例えば、立派なギャンブルであるパチンコの違法性や中毒性に関するマスコミ報道はほとんどありません。パチンコ業界は、TVの大口CM発注者だからだと言われます。同様にゲーム関連業界も大口のTVCM発注者です。子供たちへの過度なゲームの課金が問題になった際、マスコミの反応は鈍いものでした。

さらに言えば、マスコミにとって、警視庁はニュースのネタを流してくれるありがたい存在です。警視庁はパチンコ業界への天下りが多いことで知られます。その関係への配慮もあるのでしょう。かつて検察庁のスキャンダルは報道されることがないという話がありました。検察もネタを流してくれるお得意様と言えるわけです。新聞とTVの一体経営の弊害は、ジャニー喜多川氏による性的虐待に関する報道でも明らかです。2019年の文藝春秋やBBCによる報道は、世界中で取り上げられ、大きな問題となりました。ジャニー氏に対する告発は、1980年代から間断なく続いていました。業界の常識でもあったようです。マスコミは、これを一切無視してきました。TV局にとって、ジャニーズ事務所は、視聴率を稼ぐためにはありがたい存在であり続けたからです。そのマスコミのスタンスが被害者を増産し続けた面もあります。

米国で始まった”#MeToo”のムーブメントは、2017年、ニューヨーカー誌による大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの告発によって、一気に世界中に広がりました。その際、ジャニー喜多川氏の問題も注目されて当然だったようにも思います。しかし、日本では、ジャーナリストの伊藤詩織さんによる告発等もありましたが、大きな広がりにはなりませんでした。日本全体、あるいは一部業界が残す封建的体質ゆえ、という説もありますが、マスコミ報道の薄さも気になりました。伊藤さんが告発した元TBSの山口氏は、安倍晋三氏に最も近いジャーナリストと言われ、官邸によるマスコミ報道、あるいは司法に対する無言の圧力があるという噂も絶えませんでした。日本にも、立派なジャーナリストが多く存在することは理解しています。ただ、ネットの時代になっても、地上波TVが圧倒的影響力を保持する日本では、我々自身が、相当しっかりしなければならないわけです。(写真出典:asahi.com)

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