スクーター・パイは、ムーン・パイのパクリ商品です。ムーン・パイは、1917年にテネシー州のチャタヌーガ ・ベーカリーが発売し、現在も販売されているロング・セラー商品です。エンゼルパイはマシュマロをビスケットではさみますが、ムーン・パイには全粒粉で作るグラハム・クラッカーが使われています。よりサクッとしたパイに近い食感があります。主に南部で売られていたようですが、北部では1940~50年代あたりにパクリ商品のスクーター・パイが登場します。ただ、現在は売られていないようです。スクーターとは、当時、NYヤンキースの遊撃手として大活躍していたフィル・”スクーター”・リズート選手にちなんで命名されたようです。フィル・リズートは、小柄なイタリア系ゆえ”スクーター”と呼ばれました。
ムーン・パイは、ケンタッキーの鉱山労働者へのヒアリングに基づき生まれたとされます。食べ応えのあるスナックということなのでしょう。アメリカでは、なぜかローヤルクラウン・コーラ(RC)とのセットが、肉体労働者のランチの定番になっているようです。エンゼルパイの高級感とは大違いです。ジョージア州コロンバスで生まれたRCは、コークとペプシには遠く及びませんが、一応、売上世界第3位のコーラとなっています。一時期、日本でも販売されていましたが、現在は撤退しています。ちなみに、RCは、世界で初めて缶入りコーラを発売し、世界で初めてカフェイン・フリーのダイエット・コーラを発売した会社としても知られます。現在は、ドクターペッパー・スナップル・グループが製造・販売しています。
マシュマロは、19世紀にフランスで開発されました。当初原料とされていたウスベニタチアオイの仏語ギモーブ、英語名マシュマロが、そのまま菓子名になったようです。19世紀末には、現在のメレンゲ、シロップ、ゼラチンで作る手法が確立されていたようです。それから間もなく日本へも伝わり、1887年には、岡山の下山松壽軒がマシュマロを使った菓子「つるの玉子」を発売しています。新食感のつるの玉子は、大人気となったようです。ただ、アレンジ菓子ではなく、日本で初めてマシュマロそのものを商品として発売したのは、1892年の風月堂だったようです。また、1905年には、博多で鶏卵素麺を作っていた石村萬盛堂が、余った卵白を使い「鶴乃子」を発売、現在では博多土産の定番の一つとなっています。
日本の場合、マシュマロの消費量の多くは、エンゼルパイと鶴乃子系が占めているのではないかと思います。アメリカでは、たき火で焼いて食べるのが一般的です。また、焼いたマシュマロをチョコとグラハム・クラッカーで挟んで食べるスモアも人気です。家庭内では、溶かしたマシュマロをポップコーンと混ぜるといったアレンジも子供のおやつの定番です。近年、日本では、SNSでスモア・トーストなるものがバズったようです。食パンのうえに刻んだチョコを敷き、その上にマシュマロを隙間なく乗せてトーストするわけです。これはもう間違いなく美味しいに決まっています。2021年、森永は、発売60周年を記念して、エンゼルパイのブラッシュアップを行いました。あわせて電子レンジで温めて食べることも薦めています。スモア・トーストの流行を意識したのかも知れません。(写真出典:morinaga.co.jp)